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ロバート・W・チェンバース「イスの令嬢」The Demoiselle d’Ys

チェンバースの短編集「黄衣の王」の第5の話「イスの令嬢」を読み返してみた。この話に筆者は以前から深く心惹かれている。

「黄衣の王」は、ラヴクラフトに認められたことから、クトゥルフ神話体系に取り込まれている。クトゥルフものと呼べるのは最初の4篇であり、最近の翻訳ではこの4篇のみが取り上げられることも多い。

ハスターという名の鷹匠が登場はするが、「イスの令嬢」はクトゥルフとは無関係の怪談話として扱われてしまう。Web上には、無料の邦訳が公開されている。

https://www.asahi-net.or.jp/~yz8h-td/misc/demoiselledYsJ.html

道に迷った結果、古フランス語を操る伯爵の地位を持つ女性、ジャンヌ嬢と恋に落ちる。令嬢は鷹匠を何人か抱えており、自分も鷹匠としての修練に励んでいた。

瀧内公美主演「彼女の人生は間違いじゃない」

瀧内公美が主役の金沢みゆきを演じる。2017年の映画。場所は福島。レンタルDVDで観た。

震災で母を失い、自宅は汚染地域にあり仮設住宅で父と暮らしながら、昼間は地元の市役所で働き、週末は東京・渋谷でデリヘル嬢をやっている。

瀧内公美は、実際にデリヘルをしている女の子などから取材して役作りをした。東北の娘が「地元にいると自分が保てなくなりそうになった」と言っていたのが印象的と発言している。

監督は廣木隆一。同名の自作小説の映画化である。監督は福島出身。

2020年の映画「アンダードッグ」でシングルマザーのデリヘル嬢、明美を演じていたのも瀧内公美だったことに今まで気がつかなかった、

演出:森新太郎、振付:森山開次「夜叉ヶ池」

2023年5月7日と11日の2回、PARCO劇場で、作:泉鏡花の舞台「夜叉ヶ池」を観た。主人公、萩原晃を勝地涼が演じた。友人、山沢学円が入野自由、萩原の妻、百合が瀧内公美という配役だった。

この舞台で最も印象に残ったのは、森山開次振付による、竜神白雪姫とその眷属たち魔物らのダンスである。異質な動きを伴った壮麗な踊りは、圧巻であり美しかった。対する人間たちの、卑小で俗な様が際立った。

勝地涼の演技を思い返してみると、2007年の蜷川幸雄演出「カリギュラ」での、カリギュラを慕う青年シピオンが好演で光ってた。映画では2020年の武正晴監督のボクシング映画「アンダードッグ」の芸人ボクサーか。

瀧内公美の今回より前のものは、2014年の初主演映画「グレイトフルデッド」のぶっとんだ演技しか知らない。これから他の作品も見ていこう。

今回の2回のチケットは、一方はイープラス、もう一方はパルコ直営のパルステ!の抽選による先行予約で取った。どちらも最前列中央のかぶりつきで、座席に優劣はつけられなかった。

ベルナルド・ベルトルッチ「暗殺のオペラ」

ベルトルッチのファシスト3部作の第1作、「暗殺のオペラ」をAmazon prime videoで見直した。イタリアでの公開は1970年だが、日本での公開は1979年であり、リアルタイムで映画館で観ているのだ。第2作の「暗殺の森」はイタリア公開は1970年、日本での公開は1972年であり、映画館でヨーロッパ映画を見るような、おませな年齢に筆者は達していなかった。後になってからレンタルビデオで観た。第3作「1900年」は、イタリア1976年、日本1982年で、5時間16分の大作だが映画館で観ている。

「1900年」は DVD販売まで、気が遠くなるほど待たされたが、「暗殺のオペラ」のDVD、BDも権利問題で長らく手に入らなかった。今は配信で見れるので、幻の映画ではなくなった。

あらすじはそっくりそのまま引用する。ムッソリーニによるファシズム政権下の1936年、ひとりの抵抗運動の闘士が北イタリアの小さな町の劇場でオペラを観劇中、何者かに暗殺されるという事件が発生。凶弾に倒れたアトスは以後、町の伝説的英雄として語り継がれる存在に。彼の名と面影をそっくり受け継いだ息子のアトスは、事件から20数年後、父の愛人だったドレイファスから招かれて町を訪れ、今なお多くの謎に包まれた父親の死の真相の解明に乗り出すのだが…。[シネフィル]

サーカスから逃げたライオンが死に、ライオン料理となって運ばれてくるというエピソードがある。このメタファーてんこもりのシーンの意味するものはなんだったのだろう。権力者にあらがうという意味と捉えるのが一般的な解釈。タイトルロールにもライオンの絵が描かれているので、なにか重要なものがあるはずなんだが。

一緒に見に行ったクリエイターの人が、取ってつけたようなシーンだと猛烈に批判していたので覚えていた。

原作はJ.L.ボルヘスの小説「裏切り者と英雄のテーマ」。「伝奇集」に収められているが、読んでいなかった。

ベルナルド・ベルトルッチ「革命前夜」

映画「殺し」で監督デビューを22歳にして果たした、ベルトルッチの第2作「革命前夜」(1964年)をレンタルDVDで観た。

イタリア、パルマの青年ファブリツィオは、ブルジョワ階級でありながら共産党員のマルクス主義者だった。同じブルジョワ階級のクレリアと婚約しているが、別れるつもりになっていた。親友アゴスティーノの突然の死にショックを受ける。ミラノから母親の妹である若い叔母ジーナがやって来た。二人は近親相姦の関係にはまりこんでいく。

魅力的な叔母を、アドリアーナ・アスティが演じる。精神疾患の転地療養のためパルマに来ていて、ミラノには帰れない。映画はアドリアーナ・アスティの演技に全部持っていかれた。

新大久保、韓国料理「ハレルヤ」閉店

ハレルヤのプルコギ

1977年創業の韓国家庭料理の老舗「ハレルヤ」が2023年2月26日をもって閉店しました。移り変わりの激しい新大久保の店の中では、古くから続く固定客の多い店でした。

経営者は、筆者の都立青山高校時代の同級生。彼はラグビー部でした。筆者はハンドボールサークルでしたが、右手小指を3回骨折して参加できなくなっていました。

高2の文化祭の時、クラスの出し物が映画と決まって、彼がサミュエル・ベケットのシナリオを映画にしたいと持ってきた時から、深く関わらせていただきました。シナリオのタイトルは確か、「film」という名だったような。フランス語で「映画」という意味です。8ミリ映画を撮影し、上映に漕ぎ着けました。この時代は一般人が扱えるようなビデオカメラは存在していませんでした。

味が保証できる、安心して食べに行ける韓国料理店は、他には思いつきません。

ハレルヤのサイトをじっくり見たところ、時期は決まっていないが移転しますとあります。新しい店の場所は書かれていません。まだ決まっていないのでしょうか。

劉慈欣「三体0 球状閃電」

「三体」の雑誌での連載は、2006年に始まった。本書「三体0 球状閃電」は、2005年に単行本として刊行。「三体」の前日譚にあたる。

現在においても、そのメカニズムがわかっていない自然現象、球電。主人公の陳は、14歳の誕生日に、球電により両親を灰にされた。その後の人生を球電研究に捧げることになる。

球電が目撃された泰山で、球電の兵器利用を追求しようとする博士課程の女性、林雲に、陳は出会う。林雲はその後、新概念兵器開発センター少佐となり、陳と共に球電研究にのめり込んでいく。

幾多の失敗を経験したあと、陳は球電が未知の空間構造ではないかという仮説を立てる。仮説の検証は、今の研究チームの能力を超える。「三体」シリーズで重要な役割を果たす、世界的理論物理学者、丁儀が仲間に加わる。

思いもよらない概念の出現、加速度的な展開のハードSF。それでいて人間も描かれる。読み進むにつれ邦訳版の「三体0」というネーミングが、当を得たものだったことがわかってくる。

「三体0」および「三体」とは無関係だが、スターリンによる大粛清を描いた、ニキータ・ミハルコフ監督の映画「太陽に灼かれて」のラストシーンで、光の玉が部屋の中に入ってきて、何も起こさず窓をすり抜けて出ていく。筆者は球電だと思っているが、誰もコメントしていない。どうなんだろう。1994年ロシア・フランス合作で、第67回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作。

吉田鋼太郎演出、小栗旬出演「ジョン王」

彩の国シェイクスピア・シリーズとして、蜷川幸雄の後を継いだ吉田鋼太郎演出の「ジョン王」は、最初2020年6月に彩の国さいたま芸術劇場で上演が予定されていた。小栗旬出演で、チケットがどうしても取れないほど人気を集めていた公演だったが、緊急事態宣言で全公演が中止。

このままでは、シェイクスピア全37戯曲の完全上演の目標が達成できていないと、2022年12月〜2023年2月の上演が決定された。東京公演の会場はシアターコクーン。前回のチケット取りで懲りていたので、劇場に足を運ぶための努力はしないで、Bunkamura STREAMINGでの映像配信で視聴した。

小栗旬が、最もセリフの多い私生児フィリップを演じるが、主要な役はすべて充実した出番がある群像劇として描かれている。印象に強く残ったのは、吉原光夫のジョン王と玉置玲央のコンスタンスだ。

高校の世界史で勉強した、王の権限に制限を加えるマグナ・カルタについて、シェイクスピアはいっさい触れていない。

この「ジョン王」は、今日ではシェイクスピア劇の中でもっとも人気がない作品と言われている。それもあって今回の上演には注目が集まったのだろう。

アラバール作、生田みゆき演出「建築家とアッシリア皇帝」

2022.12.4にシアタートラムで、劇作家フェルナンド・アラバールの代表作「建築家とアッシリア皇帝」を観た。前から4列目で中央近くのいい席だった。田ノ口誠悟の新訳で、生田みゆき演出、二人芝居で岡本健一、成河出演。

絶対にチケットが取れるように、確率を上げるため自社のチケット先行販売が利用できる、世田谷パブリックシアター友の会に入会した。イープラス、ぴあなどの大手は避けたのだ。

二人の俳優、岡本健一と成河の演技は冴えていて、切れ味良く、充分に楽しめた。

アラバールの演劇は、1970年代に芝居を齧った筆者には原点にあたる。懐かしい。テアトル・パニック(恐慌の演劇)と自らの作品を称したアラバールだが、ベケット、イヨネスコに続く、不条理演劇の第二世代とも位置付けられる。

不条理演劇のストーリー性のない、「関係」でできた世界。舞台から、ループ量子重力理論の提唱者、カルロ・ロヴェッリの著書「世界は関係でできている」で語られた哲学のアナロジーを感じ取った。1967年のパリでの初演から55年経つが、今でも生き生きとした刺激をもたらしてくれる作品だ。

1970年代後半に購入した宮原庸太郎訳の戯曲集。

エリザベス・モス主演「ハースメル」

エリザベス・モスの怪演が全てと言って過言ではない映画。Amazon prime videoで観た。

あらすじは、公式サイトより一部修正して。

女性3人組のパンクロックバンド「サムシング・シー」。
サムシング・シーのメインボーカル「ベッキー・サムシング」(エリザベス・モス)は、パンクロック界のカリスマ的存在。

彼女の音楽性と過激なパフォーマンスは熱狂的なファンを生む一方で、その言動は常に世間の注目を集めることとなり、周囲からの批判やプレッシャーによって、ベッキーは心身のバランスを崩している。

人気にも陰りが出て、その焦りから呪術師に心酔し、ドラッグやアルコールに溺れきっていくベッキー。バンドメンバーとの間にも大きな亀裂が生じ、常軌を逸した行動が引き金となって、ついに、舞台から引きずり降ろされる。

それから1年後、バンド活動を休止し、表舞台から退いたベッキーは、アルコールやドラッグを絶ち、少しずつ自分を取り戻そうと日々葛藤していた。そんな彼女を救ったのは、最愛の娘タマの存在。

ベッキーは自分の過去と向き合い、バンドメンバーやかつての仲間の力を借り、4年ぶりにライブを行う。

監督はアレックス・ロス・ペリー。

若手のバンドAkergirlsメンバー役で、カーラ・デルヴィーニュが出演してる。映画内ではゆっくり見れなかったAkergirlsの動画がYouTubeにあった。

https://youtu.be/J9jf1qdUU4Q

癖の強い映画で、見るのが辛くなる場面も多いが、ステージ活動を行っている人は見るべき。