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アンディ・ウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」

「火星の人」のアンディ・ウィアーの新作。とんでもなく面白かった。どう紹介してもネタバレとなって感動が薄れてしまうので、詳しくは書けない。異星人とのバディものとだけ記しておく。アメリカでは2021年5月に出版されるや直ちにベストセラーとなり、現在ライアン・ゴズリング主演で映画化が進行中。

とにかく多くの人に読んでもらいたい。

早川書房邦訳版の、上巻と下巻の表紙が1枚の絵の左と右であることに、このブログのタイトル写真として2枚を結合して初めて気づいた。

唐十郎作、金守珍演出「泥人魚」

2021年12月9日、シアターコクーンで「泥人魚」を観た。

「泥人魚」は、2003年4月唐組で初演。読売文学賞、紀伊國屋演劇賞、鶴屋南北戯曲賞を受賞した、唐十郎後期の名作戯曲である。惜しくも唐組の公演は見逃したが、また唐十郎が熱いと唐組次回作、2003年秋公演の「河童」から唐組の熱心なファンに戻った。2012年5月に唐十郎が脳挫傷の大けがを負って、舞台出演ができなくなるまで観客を続けた。現在唐組は弟子の久保井研が演出している。

18年ぶりの再演となる本公演の演出は、劇団・新宿梁山泊主宰の金守珍。2019年に唐十郎の劇団・状況劇場時代の最高傑作「唐版風の又三郎」を、同じシアターコクーンで上演している。「唐版風の又三郎」も初演の状況劇場の公演は観ていないが、角川書店から出た戯曲を李麗仙、根津甚八を思い浮かべ何度となく読み、安保由夫作曲の劇中歌をいつも口ずさんで舞台を想像していただけに、このときの公演は、安保由夫の曲が使われていないことで期待はずれに感じてしまった。

今回は、積み上げた思い入れがなかったので、素直に楽しむことができた。

主演は宮沢りえ。宮沢りえの舞台は2019年のシス・カンパニーの「死と乙女」以来2年ぶり。この舞台については、川崎市眼科医会報で文章にしたのでこのブログには載せていない。感動を呼ぶ舞台だった。

漁港を去って、今は町のトタン屋で暮らす蛍一(磯村勇斗)のところに様々な人物が押しかけるが、昔お世話になった漁師ガンさんの養女やすみ(宮沢りえ)も現れる。やすみの脚のつけねには輝く鱗のように桜貝が張り付いていた。

トタン製の湯たんぽが数多く天井からぶら下げられ、密度のある空間を作り上げていた。金属製の湯たんぽがまだこの世に存在していることに懐かしさと同時に憎しみを覚えた。筆者は小学生の頃まで、湯たんぽで寝具を温めなければ眠れなかった。就寝中にカバーが口を開けてしまったのか、左足首にII度熱傷のあとのケロイドが残る。

闖入した客の手により何枚かのトタン板で蛍一の家が区切られ、向こう側の世界と隔絶される。諫早湾のギロチン堤防を模している。

製作総指揮ジョーダン・ピール、J.J.エイブラムス、ミシャ・グリーン「ラヴクラフトカントリー」

米国の1950年代の黒人差別を、ラヴクラフトのクトゥルー神話の世界観を交えて詳細に描き出したドラマ「ラヴクラフトカントリー」が面白い。レンタルDVDで観た。

凝りに凝った設定を、Webで1話ずつ映画評論家、町山智浩が解説している。この話を聞いた上で、映像を2回見直さないとダメだ。内容の半分も理解できないまま終わらせてしまうところだった。

シーズン1、全10話で、シーズン2以降は製作されないことが決定している。第10話は、これから物語は新しい展開を見せるといった終わり方だっただけに、続編が作られないのは本当に残念だ。

これをきっかけにして、奴隷制の歴史の知識を深めていきたい。Netflixオリジナルドラマ、「失われた海賊王国」では、カリブの海賊の社会は民主主義的な共和制だったこと。海賊船に襲われた奴隷貿易船の商品であった奴隷は、海賊仲間として対等に迎えられたことが描かれている。例外はあったようだが。

スタニスワフ・レム「インヴィンシブル」

スタニスワフ・レムの作品で一番好きな、ファーストコンタクト三部作の三番目がポーランド語原典からの新訳となった。邦題「砂漠の惑星」で出版されてたやつだ。このブログには2020年5月6日に投稿した。以前のはロシア語からの重訳だった。原題の「無敵号」を英語にして「インヴィンシブル」が新しいタイトル。

あらすじを、巻末の沼野充義の解説から引用する。宇宙船インヴィンシブル号は、行方を絶ったコンドル号を捜索するために、琴座のレギスIII惑星にやってくる。そこでコンドル号の乗組員たちを襲った原因不明の不可解な大量死に直面し、謎が突き付けられる。インヴィンシブル号の乗組員たちは、その謎を解明するために惑星の探検を続け、奇怪な都市(のようなもの)の廃墟や、小さな金属製の「虫」が群れを成して作る恐るべき黒雲に遭遇する。

1964年の作品で、本邦初訳は1968年。ハヤカワ文庫に収録されたのが1977年である。筆者が読んだのは1979年ごろだ。

多数の小さな虫が群体を成して攻撃してくる。このイメージは、他の作家の作品にも散見される。ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」は岩波書店から厚いハードカバーで邦訳が1982年に出版された。筆者は1984年ごろ、映画化される前に読んでいる。小さな「虫」が集まって大蜘蛛の姿を取る群集者イグラムールに、幸いの竜フッフールが襲われている所に出会い救うのだ。

映画「ネバーエンディング・ストーリー」は1984年公開で、コンピューターグラフィックス(CG)の時代の前のローテク・オンリーの作品だ。イグラムールの映像化は無理と、影も形も出てこない。全面的にCGが使われた映画「トロン」が1982年にすでに存在しているのだが。

2008年の映画「地球が静止する日」は、1951年の映画「地球の静止する日」のリメイクである。宇宙人クラトゥをキアヌ・リーブスが演じた。巨大ロボット、ゴートが虫型ナノマシンに姿を変え、人類を滅ぼそうとする。もちろんCGで描かれた。

斧田小夜「飲鴆止渇」

鴆は中国の伝説の毒鳥。タイトルは、鴆の毒の入った酒を飲み渇きを癒やす、すなわち、後のことを考えず目先の利益を得るという四文字熟語から。

羽毛にも毒のある鳥として、ニューギニアに生息するピトフーイが有名か。時雨沢恵一の「ガンゲイル・オンライン」に、ピトフーイという名のキャラクターが登場する。鴆も架空の存在ではなく、過去の中国に、今では絶滅した毒鳥が実際に生息していたとする説がある。

本作品の鴆は、翼長3里に達し、衝撃波で人間や建物を切り裂くラドンのような怪獣である。毒も持っている。現代が舞台で、アジアの小国、揺碧国で民主化を求めるデモと軍が対峙しているさなかに出現した。天安門事件を思い起こされる。

事件の後、政権は変わり、国は発展し科学技術も進歩した。鴆毒に対して、ナノマシンを体内に入れる輸血治療が普及している。

第10回創元SF短編賞優秀賞受賞作。

細田守「竜とそばかすの姫」

細田守監督の最新作、「竜とそばかすの姫」を2021.8.1に観た。

良かった。

インターネット上の仮想世界〈U〉と現実世界が舞台。〈U〉は「サマーウォーズ」の〈OZ〉をさらに大規模にした世界で、50億人以上が集う。参加者は〈As〉と呼ばれるアバターをまとう。

主人公の女子高生、内藤鈴「すず」は、〈U〉の〈As〉として「ベル」という名の歌姫となる。

「すず」と「ベル」を、ミュージシャンの中村佳穂が演じる。もちろん歌も彼女が唄う。アフレコは初挑戦だと。

「すず」と「ベル」の歌で物語が綴られていく、音楽劇とカテゴライズできる。観終わったあと、何度もサウンドトラックを聞き直した映画は久しぶりのものだ。

「ベル」はスピーカーで着飾ったクジラの上で唄う。「バケモノの子」の白鯨を思い出す。クジラとオオカミというモチーフには、意味が込められていると監督は発言している。「竜」の姿もオオカミに似ている。

「初音ミク・クロニクル」

アート展「初音ミク・クロニクル」を品川 THE GRAND HALLで見た。撮影自由の、等身大初音ミクフィギュアが素晴らしい出来だった。さらに、公式イラストを担当したKEIによる、ツインテールではないポニーテールの初音ミクifのイラストが心を掴んだ。こちらは撮影禁止。

スマホアプリを利用した拡張現実ギャラリーガイドはあった。しかし、空間全体を作品化するインスタレーションを中心とした展示を期待していたが違った。映像ももっと数多く出すべきだ。

世界にタメ張れる日本出身の歌手は初音ミクしかいないと思っている筆者は、TOKYO2020開会式の演出では満足できなかった。

名曲「メルト」を含んだ、supercellの1stアルバム「supercell」が世に出たのは、2009年3月だった。ここらへんから多くの人が熱狂にとり憑かれた。このアルバムの中では「ブラック★ロックシューター」が一番好きだ。

中川翔子出演「SHOW BOY」

生しょこたんを見るために、2021.7.8 マチネの、シアタークリエの舞台「SHOW BOY」に行った。しょこたんがTwitterで、これのメイクと衣裳を話題にしていたのだ。素敵だったのでチケットを取った。

ジャニーズの男性4人のユニット、「ふぉ〜ゆ〜」の持ちネタの舞台で、今回は2年ぶり2回目の公演となる。演出はウォーリー木下。

巨大な豪華客船の最大の見世物は、キャバレー・キットカットクラブで午前0時に開幕するショーステージだ。しょこたんが支配人として取り仕切っている。準備に追われるキャバレーの裏側では、あちこちでトラブルが同時発生していた。

しょこたんはジャニーズの面々に負けることなくダンスをこなした。一人だけ背が低いのが目立つのがご愛嬌。唄も良かった。「裏方」を演じるふぉ〜ゆ〜の福田悠太が弟で、しょこたんが姉の役柄だったがそつなく演じられていた。太い声を出していたのは役作りの結果か。のどを痛めていないかと心配になった。

唐十郎「任侠外伝 玄海灘」

女優、李麗仙が、2021.6.22逝去された。

紅テント、状況劇場で主演女優を務め、アングラの女王とも呼ばれた。唐十郎の元妻、大鶴義丹のお母様である。

このブログで以前に触れたが、状況劇場の芝居は1975年の「糸姫」から観ていた。根津甚八と李麗仙が主演という形が定着して久しく、小林薫がメキメキ実力をつけていった時代である。人気は凄いものだった。毎回、テントにぎゅう詰めになって舞台を観た。

故人を偲ぶにあたって、映像ならすぐに再生できる。「任侠外伝 玄海灘」は、1976年公開の、唐十郎が監督した唯一の映画である。大学の劇団の先輩が端役だが出演したので、個人的にも感慨深い。映画のオープニング曲の韓国現代歌謡を、李麗仙と密航の女達で焚き火を囲んで歌うところが写真のシーンだ。

出演者から教わった歌詞はこうだ、

サランエー コーンモッコリ コッケマンデュローソ サーラハヌーン ターンシネゲ コーロテュリゴシッボー  ターシヌーサーラハヌイマウーン アルゴケシルカー

これだけの情報で、こはら眼科の峰村健司先生が曲名、歌詞を調べて日本語訳をつけてくれた。이영숙(イ・ヨンスク)が唄う꽃목걸이(花の首飾り)で1972年の曲である。

歌詞カードは、以下のURLで参照できる。

https://blog.daum.net/memil9599/45

愛の花の首飾り きれいに作って 愛するあなたに かけて差し上げたい。 あなたを愛するこの気持 ご存知でいらっしゃるだろうか  (以下繰り返し)

Apple Musicに元の曲があった。これは映画のオープニング曲と同じものだ。

https://music.apple.com/jp/album/%EA%BD%83%EB%AA%A9%EA%B1%B8%EC%9D%B4/1064556037?i=1064556111

村瀬修功監督、富野由悠季原作「閃光のハサウェイ」

上演延期を繰り返していたガンダムアニメ映画「閃光のハサウェイ」が、やっと公開された。

富野由悠季の原作はスニーカー文庫から1989年に出版され、名作との評価を勝ち得ている。映画は三部作の第1作にあたり、これからさらに2作作られる予定だが、詳しい日程などは発表されていない。小説の結末はネタバレ禁止だ。ショックを受けた記憶が鮮明に残っている。

「逆襲のシャア」から12年後が舞台となり、続編的位置づけで小説は書かれていた。ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアが主人公である。

ハサウェイの乗るクスィーガンダムと、これと戦う地球連邦軍のペネロペーはミノフスキー・クラフトを搭載し、大気圏内を自由に飛行できる。大型化していった時代のモビルスーツだ。

コックピット内の映像は、VRゲームのようで3D感にあふれている。音響もすごい。3DCGを利用したキャラクター造形は、好みの分かれるところだろう。

小説では、オーストラリアのアデレードとダーウィンの位置を頭に入れておくのに苦労した思い出があるが、地名は変更になったのかダーウィンという街は出てこなかった。

第1作は、話としてはまだ序盤であり今後の展開を待つ。