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鷹匠裕「聖火の熱源」

業界第2位の広告会社を定年退職した後、小説家としてデビューした大学時代からの友人の新作小説です。

以下に、紙本の帯にある内容紹介をそのまま引用。

2024年8月、アメリカ西海岸で大地震が発生。28年のロサンゼルス夏季五輪の開催が困難になり、東京代替開催案が浮上する。スポーツマネジメント会社社長の猪野一斗は、古巣の広告代理店のゴーマン常務に命じられて代替開催に奔走することに。史上最大1000億円クラウドファンディングの実施、ARを駆使した画期的な体験型観戦など、選手と観客と運営が三位一体となった「夢の祭典」を実現させるために、4人の会社でスポーツ利権と真っ向勝負する。一斗はコロナ禍と裏金問題で呪われた東京2020の汚名を返上できるのか。

再び、作者の慣れ親しんだ広告業界の闇が基盤となっています。ついこの間パリ五輪が終わったばかりの、現在と接した時を舞台としたビジネス小説。しかし、電通が汚職、談合と好き勝手やってめちゃくちゃになったという実感を、一般人である我々はもっていません。

あらすじでは4人ということが強調されますが、視点は常に主人公の猪野一斗にあります。群像劇のスタイルにするかと思いましたが、そういう気はなかったようです。

星野勝之の装画が暑苦しい絵なのは、編集者の意向と作者が言ってました。本来は聖火台で燃えてるのは水素ガスで、無色透明な炎のはずなんですが。東京2020の時のように、炭酸ナトリウムで黄色に染め続けているのでしょうか。

神立尚紀「カミカゼの幽霊 人間爆弾をつくった父」

古くからの友人が編集者を務めたノンフィクション、「カミカゼの幽霊」を読んだ。

大戦末期の海軍の特攻ロケット機「桜花」。1.2トンの大型爆弾に翼と操縦席とロケットをつけ、一式陸攻に吊るされ敵艦隊のそばまで運ばれ、人間が操縦して敵艦に体当たりする。「人間爆弾」とも呼ばれた。

「桜花」を発案したとされるのはベテランの陸上攻撃機偵察員だった大田正一少尉である。終戦直後、零式練習戦闘機を操縦して姿を消した。自殺飛行とみなされた。

しかし大田は生きていた。戸籍は失ったままで、偽名で結婚し三人の子供をもうけた。

戦局の悪化と共に、特攻はすでに海軍の既定路線となっていた。非人道的な兵器の開発を、上から命じるのではなく、現場の搭乗員からの提案と熱意を受けやむを得ず採用するというスタンスを軍は取りたかったのだろう。

「桜花」の航続距離の短さ、搭載量を超過した一式陸攻の性能低下、護衛戦闘機の数を揃えられなかったことから桜花隊の初出撃では、一式陸攻全機が撃墜された。その後も期待したような戦果を挙げることはできなかった。

蛇足だが、このブログの筆者の父は、材木屋の息子の飛行機設計技師だった。木製の特攻機の開発を命じられていたのではないかと想像するが、特攻に関して戦後まったく触れることはなかった。

丸山晶代「ちくわぶの世界」

ちくわぶをこよなく愛するちくわぶ料理研究家、丸山晶代の著作を読破した。このブログの筆者もちくわぶラヴであり、Webで紹介記事を読み購入したのだ。

この本にも触れられているが、赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」のチビ太がいつも持っている串に刺さったおでんは小学生の時から憧れだった。上から三角、丸、ギザギザの横棒となる。三角はコンニャクで、横棒はちくわぶと信じていた。丸も本書を読むまではつくねだと思っていた。がんもどきでは大きすぎるのではないか。「おそ松くん」の時代より後、高度成長期の物価上昇の時代、ダウンサイジングが進行していたのだろう。そのサイズ感に筆者は囚われているのに違いない。

小学校の放課後、公園で遊んでいるとまれにおでんの屋台がやって来ることがあった。乏しい小学生のお小遣い事情が許せば、ちくわぶ1個だけ買ったのだ。1年に1度あるかないかのぜいたくだった。

筆者は2歳から17歳まで、東京の目黒区原町に住んでいた。山の手の下町と言われる地区だったが、この地域ではちくわぶがごく普通の食べ物だったのは間違いない。メリケン粉の固まりで、栄養分はほとんど炭水化物と、ちくわぶが好きでない人がいるのは確かだが、東京近郊だけで食べられているのを知ったのは最近のことでびっくりした。

メリケン粉:小麦粉のこと。筆者の親の世代はメリケン粉と呼んでいた。

おでん以外の、ちくわぶを用いたレシピも数多く紹介されている。

ちくわぶ全国拡散をめざす同志よ。まずこの本を手に取ることから始めよう。

製作総指揮ジョーダン・ピール、J.J.エイブラムス、ミシャ・グリーン「ラヴクラフトカントリー」

米国の1950年代の黒人差別を、ラヴクラフトのクトゥルー神話の世界観を交えて詳細に描き出したドラマ「ラヴクラフトカントリー」が面白い。レンタルDVDで観た。

凝りに凝った設定を、Webで1話ずつ映画評論家、町山智浩が解説している。この話を聞いた上で、映像を2回見直さないとダメだ。内容の半分も理解できないまま終わらせてしまうところだった。

シーズン1、全10話で、シーズン2以降は製作されないことが決定している。第10話は、これから物語は新しい展開を見せるといった終わり方だっただけに、続編が作られないのは本当に残念だ。

これをきっかけにして、奴隷制の歴史の知識を深めていきたい。Netflixオリジナルドラマ、「失われた海賊王国」では、カリブの海賊の社会は民主主義的な共和制だったこと。海賊船に襲われた奴隷貿易船の商品であった奴隷は、海賊仲間として対等に迎えられたことが描かれている。例外はあったようだが。

デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

ヒトラーによる、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)の飢餓についても触れたくなったので、本書を読み直した。

第二次世界大戦で、ドイツ軍はソ連第2の大都市レニングラードを900日近く包囲し、兵糧攻めを行った。「レニングラード包囲戦」だ。市民の死亡は67万人とも100万人以上とも言われている。レニングラードは耐え抜き陥落しなかった。

主人公レフは17歳、落下傘で落ちてきたドイツ兵の死体から略奪行為を行ったところをソ連兵に捕まった。本来即刻死刑となるところを、脱走兵コーリャとともに秘密警察の大佐から奇妙な任務を授かる。大佐の娘の結婚式のために、1週間以内に卵を1ダース探してこいという。

レフとコーリャの命をかけた弥次喜多道中が始まった。

飢餓の象徴として「図書館キャンディ」が印象深い。本の表紙を剥がして製本糊だけ取り出し、煮詰めて棒状にしたものだ。市内からは動物だけじゃなく本も消えていた。

二人は、人肉食の殺人夫婦の手からかろうじて逃れた。人肉食が横行していたことは、他の場面でもそれとなく書かれている。

卵を求めてドイツ軍支配地域にはいった二人は、パルチザンの一団に救われる。これが、運命の出会いに発展していく。

軽妙な語り口でユーモアとペーソスに溢れた展開が、本書を読みやすく記憶に残る作品に仕立て上げている。

鷹匠裕「ハヤブサの血統」

友人の小説家の第2作です。2021年1月29日に発刊となりました。ここでいうハヤブサとは、大日本帝国陸軍の名機、一式戦、隼のことです。JAXAの小惑星探査機はやぶさ2とは関係ありません。

一式戦は、中島飛行機の開発・製造です。我が国は終戦後GHQの占領下で、7年間飛行機産業は停止させられました。復興後、中島飛行機は社名を富士重工と変え、現在は自動車のブランド名からSUBARUと名乗っています。本作品は、一式戦の設計者を祖父に持つ、自動車レース部門の責任者だった主人公が、航空機部門に異動となり苦難の末に国産戦闘機開発に成功するビジネス小説、企業小説であります。

ここでこのブログの筆者の家系についても文章にしておきます。筆者の父は1939年東大航空学科を卒業の、戦前からの飛行機設計技師でした。昭和飛行機に就職し、初めての仕事はダグラスDC3のノックダウン生産です。これは後にライセンス生産に移行しました。志願して海軍技術士官の任に就いていた時もありましたが、開戦前に退役しています。戦時中は川西航空機の紫電改の、昭和飛行機での生産にも携わっていたようです。戦後1952年にサンフランシスコ平和条約が結ばれるまでは、実家の材木屋の手伝いをして糊口をしのぎ、講和後は財閥解体で3つに分割された三菱重工の中の新三菱重工に拾ってもらいました。その後、日本航空機製造に異動となりYS-11の生産を行っています。新三菱重工時代は工場のある小牧で仕事をしていたので、名古屋の団地住まいでした。その間に、筆者はこの世に生を授かり、2歳のときに伊勢湾台風を経験したことも記憶にしっかりと残っています。

航空機産業が身近である人にとっての、あるあるネタのノンフィクションと、まったくのフィクションを適度に混ぜ合わせるのが鷹匠裕の作風です。技術畑、営業畑、官僚、政治家、国防に直接関わる方など視点の違いによって、小説の受け止められ方がかなり異なるだろうとの憶測を禁じ得ません。筆者はどうしても技術的な方面から眺めるバイアスから逃れることができませんので、電動航空機の登場も期待しましたが外れました。しかし、一般の人にとって不案内な業界の内情を知らせる、面白く書かれた小説ということは間違いないでしょう。小説の最後の方の伊勢湾への台風上陸のエピソードは、完全なフィクションだということです。

七条剛「僕の軍師は、スカートが短すぎる」

言わば、行動経済学入門ラノベ。

毎日が終電帰りのシステムエンジニア、史樹。ある夜、自宅玄関にうずくまっていた女子高生、穂春を家に泊めることに。穂春はそのお礼にと、史樹の仕事上のトラブルを行動経済学的アプローチでたちどころに解決していった。

経済学の話だけでなく、心の琴線に触れる家族愛がテーマとして語られ、満足感を持って読み終わることができた。

シカゴ大学リチャード・セイラー教授が2017年にノーベル経済学賞を受賞して、再び、行動経済学が話題となることが増えている。人間は行動が感情に左右され、非合理な行動を取ることが多い。従来の経済学では説明しきれない経済行動を、人間の心理という観点から解き明かそうとするのが行動経済学である。

行動経済学入門まんがの、佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明「ヘンテコノミクス」も、2017年11月に出版され注目を集めたことが記憶に新しい。

渡辺洋「向日(こうじつ)」

https://youtu.be/FoGkn9ppsVo

その昔、演劇シーンでともに活動した友人の詩人、渡辺洋(故人)の遺した詩が楽曲となりました。アートにエールを!東京プロジェクトの参加作品です。

作曲はウィーン国立音楽大学声楽科でアジア人で初めて教鞭を取った三ッ石潤司。テノールの佐藤洋とギターの岡本拓也とはウィーンでの仕事繋がりです。

朗読はこの作品の発案をした葉野ミツル、彼女も古くからの友人です。テノールの佐藤洋とは親と子の関係。

とても美しい曲となっています。よろしければリンクをクリックしてご鑑賞ください。

https://youtu.be/FoGkn9ppsVo

アルフレッド・ジャリ「超男性」澁澤龍彦訳

7冊目。フランスの小説家、劇作家であるアルフレッド・ジャリの代表作。シュルレアリスムの先駆者と位置づけられています。

人間と機械とセックスが、競争というスポーツを通じて無機質的に結びつけられました。そこにはヒューマニズムは存在しません。1902年の作品です。

ジャリは、近代演劇を語る時に第1ページに出てくる戯曲「ユビュ王」の作者でもあります。

マリオン・ジマー・ブラッドリー ダーコーヴァ年代記「カリスタの石」阿部敏子訳

6冊目。ダーコーヴァ年代記は創元推理文庫で、1986年から1988年の間に22冊が翻訳刊行されました。残念ながらシリーズ途中で出版は打ち切りでしたが、この世界にどっぷりと浸っていたファンは多かったはずです。

人類が不時着して、独自の文明を作り上げた惑星ダーコーヴァが舞台。剣と魔法ならぬ超能力(ララン)の世界。女性たちがみんな生き生きと描かれてました。

一番好きだったのが「カリスタの石」、次は「ホークミストレス」かな。

カバーと挿絵は、加藤洋之&後藤啓介でした。