カテゴリー別アーカイブ: ミステリー

米澤穂信「冬季限定ボンボンショコラ事件」

米澤穂信の「小市民シリーズ」の完結編が出版された。第1巻の「春季限定いちごタルト事件」が出たのは2004年である。シリーズ番外編「巴里マカロンの謎」は2020年に発行されているが、「冬季限定」は2009年の「秋季限定栗きんとん事件」から15年待たされた。

高校生を主人公とした、日常の謎系を中心としたミステリーである。主人公小鳩常悟朗が狐なら、その相方小佐内ゆきは狼とされる性格で、キャラクター造形のギャップが心地よい。

筆者が米澤穂信を知ったのは2006年のことで、「犬はどこだ」、「春季限定いちごタルト事件」、「夏季限定トロピカルパフェ事件」、「さよなら妖精」、「クドリャフカの順番」、「ボトルネック」と読んでいっている。

世に出た時期がダブるとされる小説家、桜庭一樹の作品は2005年に、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」から始まって、「推定少女」、「少女には向かない職業」、「ブルースカイ」とこなしている。

いまでは2人とも直木賞作家である。米澤穂信の方は、守備範囲も広がって最近の活躍は目覚ましいものがある。「冬季限定ボンボンショコラ事件」の謎は、より重層化し緻密となっている。

本シリーズ未体験の方は、第1巻から紐解いていってほしい。

陸秋槎「文学少女対数学少女」

中国出身の小説家、陸秋槎のミステリー「文学少女対数学少女」を読んだ。邦訳順で言えば、デビュー作「元年春之祭」は、文体に苦労したが読了。良かった。第2作「雪が白いとき、かつそのときに限り」は読書中。「文学少女対数学少女」は第3作にあたる。

紹介文はWeb上のあちこちにあるものから引用する。

高校2年生の“文学少女”陸秋槎は自作の推理小説をきっかけに、孤高の天才“数学少女”韓采蘆と出逢う。彼女は作者の陸さえ予想だにしない真相を導き出して……“犯人当て”をめぐる論理の探求「連続体仮説」、数学史上最大の難問を小説化してしまう「フェルマー最後の事件」のほか、ふたりが出逢う様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく全4篇の連作集。

「連続体仮説」の中で触れられた無限集合の濃度。高校2年以来であり懐かしさがこみ上げてきた。教科書の範囲を超えた数学の興味ある分野は、かつては本を買って独学したのだった。高校3年では大学受験数学に追われて、自由に数学を勉強する時間はなくなってしまったが。

陸秋槎も読んだ、サイモン・シンのノンフィクション「フェルマーの最終定理」を、筆者も2004年に単行本で読んでいる。

「文学少女対数学少女」とは無関係だが、筆者の大学教養課程の数学、教科書だった高木貞治の「解析概論」と齋藤正彦の「線形代数入門」、いい加減に済ましてしまったが心残りで再挑戦してみたい気持ちはある。すでに数学的能力は衰えきっているだろうけど。

ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」

潟湖干潟(せきこひがた又は、かたこひがた)の生態系を描いた小説であり、その映画化である。多様な動植物が調和する干潟生態系の、環境に対する重要な役割については1970年代ごろから叫ばれているが、すでに多くの干潟が干拓され消失してしまった。小説と映画の舞台は1969年を中心とした日々。映画では豊富な自然を映像で見ることができる。

干潟についての解説は千葉県のサイトがわかりやすかった。

あらすじは、映画公式サイトから引用。

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める…。

小説は、一つひとつの章は短く読みやすい。

カイアが書いたような図鑑本。昔、筆者はいろいろ所有していた。

斜線堂有紀「楽園とは探偵の不在なり」

日本SF作家クラブ編のアンソロジー「2084年のSF」で、斜線堂有紀の作品に初めて出会った。ジョージ・オーウェルの「1984年」から100年後の2084年が舞台ということだけが縛りの短編競作集で、23人の作家が参加してる。

斜線堂有紀の「BTTF葬送」は、2084年の映画界を描いた物語だ。映画の輪廻転生のため、往年の名画は100年で焼却されることになっている。BTTFすなわちバック・トゥ・ザ・フューチャーも2085年に葬送される。

2017年よりミステリー、SF、ライトノベル等のジャンルで斜線堂有紀は活動していて、出版された作品は多数ある。長編ミステリーで最も話題となっていた、本作品を読んでみた。

近年、ミステリー小説界では「特殊設定もの」と呼ばれるブームがあるそうだ。超常現象が起こっていても、論理性を重視した本格ミステリーが語られる。

この小説の世界では、顔がない不気味な天使があちこちにいる。2人を殺害すれば、天使により直ちに地獄に引きずり込まれる。このルールでは、起こり得ないはずの連続殺人事件の謎に挑む。

ミステリが読みたい!2021年版第2位。