カテゴリー別アーカイブ: 映画

ロザンナ・アークエット出演「800万の死にざま」

前回に引き続いて、推しの女優の埋もれた作品の紹介。1986年の作品で、未だDVD化されていない。

ロザンナ・アークエット出演の映画で有名なのは、スーザン・シーデルマン監督、1985年の「スーザンを探して」と、リュック・ベッソン監督、1988年の「グラン・ブルー」。2つの名作に挟まれて、このまま忘れ去られてしまうのかと危惧する。映画全体の出来はほどほど。娼婦役のロザンナ・アークエットの魅力は充分。GYAO!で配信されていたので見直した。

監督はハル・アシュビー。ローレンス・ブロックの小説、アル中、元警官の探偵、マット・スカダー・シリーズの5作目「八百万の死にざま」が原作。原作の一人称の語りの妙味とは、映画は方向性が異なる。

アル中探偵マシュー(ジェフ・ブリッジス)に助けを求めてきた娼婦サニーが殺される。サニーの友人の娼婦サラ(ロザンナ・アークエット)に接近するマシュー。麻薬の売人エンジェル(アンディ・ガルシア)が犯人と確信でき捜査を進めるが。

印象に残るアイテムは、コールガール組織の元締めの豪邸への入り口となるケーブルカー。犯人と腹のさぐりあいをしながら食べるかき氷。あっさりと燃えてしまう、証拠となるはずの大量のコカイン。

「スーザンを探して」、「グラン・ブルー」、1989年の「ニューヨーク・ストーリー」を観て、ファンになったらどうぞ。

ナスターシャ・キンスキー主演「ハーレム」

1985年の作品である。筆者の最も敬愛する女優ナスターシャ・キンスキーが、最高に美しい時に撮られた映画として、記憶に染み付いている。彼女の出演作はほとんど観ているので、好きな作品は数多く列挙できる。筆頭に来るのは、やはりロマン・ポランスキー監督の「テス」なのだが。

「ハーレム」は、長らくDVD化されなくて中古VHSしか持っていなかった。いつの間にか、2020年9月にDVD、BDが出ていたが気づかなかった。今回価格を下げて新盤が出たので、BDを買って見直した。

ニューヨーク、ウォール街で働くダイアンは、突然何者かに誘拐された。目が覚めるとそこは砂漠の中の城。石油王のハーレムだった。

物静かで知的な石油王セリムは、映画「ガンジー」(1982)でマハトマ・ガンジーを演ったベン・キングズレーだ。今見るとどうしてもガンジーの姿が重なってしまう。「ハーレム」を最初に観たときは、まだ「ガンジー」を観ていなかったのだろう。

ハーレムという言葉から筆者が夢想するものや、VHSの煽り文句とは舞台設定がかなり異なる。セリムが父親から相続したハーレムのメンバーは、父親の親族が多く、絶対的な服従関係など存在しない。官能に溺れることなく、ダイアンとセリムの淡い純愛物語が紡がれる。そして、このハーレムはもろく簡単に壊れていく。

監督はアルテュール・ジョフェ。フランス映画である。

トム・クルーズ主演「トップガン マーヴェリック」

公開3日目にあたる2022年5月29日に映画「トップガン マーヴェリック」を観ました。実機内にIMAXカメラ6台を搭載して撮影した、現実のスカイアクションの映像には興奮させられました。現在の素晴らしい興行成績が物語るように、多くの観客の心を掴んだのは確かです。

困難なミッションに挑む機種は、現在の米海軍の主力機、F/A18E/Fスーパーホーネット。映画「インデペンデンス・デイ」などで登場した、旧来型のF/A18ホーネットより、機体が一回り大きく、エアインテークが平行四辺形状で拡大したのが外見上の特徴となります。

笹本祐一の小説「星のパイロット」の中で描かれる、ホーネットによるコブラ機動、(失速寸前まで速度を落として、機首を上げそのまま同じ方向に飛んでいく)も見ることができます。完璧なプガチョフ・コブラが進行方向に対し90度の機首上げを行うのだとしたら、それに準じた80度くらいのコブラです。

最初の「トップガン(1986)」で主役だった、懐かしのF14トムキャットも登場し活躍します。F14の米海軍への配備は1973年。可変翼機であることから当時高校生だった筆者のお気に入りだった機種です。惜しむらくは、高校の同級生に飛行機について語り合える友人がいませんでした。日本の自衛隊にも配備されたF4ファントムは、ベトナム戦争で有名になったのでさすがに知られていましたが。

映画中、第5世代戦闘機と呼ばれて、F14と対戦するのがSu-57フェロン。ステルス機の優位性は描かれていないように思えました。顔がわからないヘッドマウントディスプレイをパイロットがかぶっていると、悪役以外の何物でもありません。

蜷川実花「xxxHOLiC」

2022年4月30日、映画館で映画「xxxHOLiC」を観た。監督は、「さくらん」「ヘルタースケルター」「人間失格 太宰治と3人の女たち」の蜷川実花。CLAMPの伝説的名作と言われる漫画の、初実写映画化である。

CLAMPのダークファンタジーの世界を、蜷川実花のカラフルな映像が描き出す。

「アヤカシ」が視える高校生、四月一日君尋(わたぬききみひろ)を神木隆之介が、不思議な「ミセ」の女主人壱原侑子を柴咲コウが演じる。

映画オリジナルキャラクターのアカグモを、舞台「泥人魚」で浦上蛍一の役をこなした磯村勇斗が演った。主人公たちと敵対する魔女、女郎蜘蛛(吉岡里帆)配下の人間である。監督の思いが凝縮して詰まっているからか、最も魅力的な役に見えた。衣装のネックチョーカーが際立った存在感を発揮する。

四月一日君尋の学ランを含めて、衣装全般が凝りに凝って作り込まれていた。学ランはいずれコスプレ衣装としてファンも製作することだろう。

お話の後半は、女郎蜘蛛により閉じ込められた永遠に続く同じ日、4月1日からの脱出となる。繰り返される同じ日々の映像を観るのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」の永遠に続く夏休み「エンドレスエイト」以来だ。言葉では実感できなくても、映像として見せられると、同じ日々を繰り返すことの辛さと一抹の幸福感がわかる。

CLAMPで最も有名なのは、「カードキャプターさくら」で、筆者の娘が子供のとき染まっていた。筆者の年代は親として作品との同世代性を感じる立場にある。

ジョニー・デップ制作/主演「MINAMATAーミナマター」

水俣でアイガモ農法を中心とした農業を営んでいる、我が出身校、都立青山高校の同期生からFacebookで紹介された映画「MINAMATAーミナマター」をレンタルDVDで観た。水俣市での先行上映は2021.9.18で、一般公開は2021.9.23だった。BD、DVDは2022.2.18発売。

1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家の一人と称えられたユージン・スミスは、今では酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。そんな時、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。(公式サイトより)

監督はアンドリュー・レヴィタス。

ユージン・スミスをジョニー・デップが演じた。映画の中心は、3年以上を水俣の中で暮らした、ユージンの再生と成長の物語だ。全世界を揺り動かした「入浴する智子と母」の写真を生み出すところがクライマックスとなる。

アイリーン役は美波。川本輝夫をモデルとした患者運動のリーダーが真田広之という配役だった。人物像が一人ひとり濃厚に描かれる。

水俣の友達は、感動したが川本輝夫の患者掘り起こし活動のシーンがないのが唯一の残念なところとしていた。水俣はチッソの城下町だったので、家族に患者がいることが知られると周りから白い目で見られ、隠していた家が多かったということだ。

写真集「MINAMATA」英語版は1975.5に世に出た。日本語版「写真集 水俣」が出版されたのは、ユージンの死後となる1980.1だ。2021.9.7に日本語版が「MINAMATA」として復刻されている。

レヴィタス監督からのメッセージがエンドロールにある。公害問題は、過去のものではなく今でも世界中のあちこちで続いているのだ。

細田守「竜とそばかすの姫」

細田守監督の最新作、「竜とそばかすの姫」を2021.8.1に観た。

良かった。

インターネット上の仮想世界〈U〉と現実世界が舞台。〈U〉は「サマーウォーズ」の〈OZ〉をさらに大規模にした世界で、50億人以上が集う。参加者は〈As〉と呼ばれるアバターをまとう。

主人公の女子高生、内藤鈴「すず」は、〈U〉の〈As〉として「ベル」という名の歌姫となる。

「すず」と「ベル」を、ミュージシャンの中村佳穂が演じる。もちろん歌も彼女が唄う。アフレコは初挑戦だと。

「すず」と「ベル」の歌で物語が綴られていく、音楽劇とカテゴライズできる。観終わったあと、何度もサウンドトラックを聞き直した映画は久しぶりのものだ。

「ベル」はスピーカーで着飾ったクジラの上で唄う。「バケモノの子」の白鯨を思い出す。クジラとオオカミというモチーフには、意味が込められていると監督は発言している。「竜」の姿もオオカミに似ている。

唐十郎「任侠外伝 玄海灘」

女優、李麗仙が、2021.6.22逝去された。

紅テント、状況劇場で主演女優を務め、アングラの女王とも呼ばれた。唐十郎の元妻、大鶴義丹のお母様である。

このブログで以前に触れたが、状況劇場の芝居は1975年の「糸姫」から観ていた。根津甚八と李麗仙が主演という形が定着して久しく、小林薫がメキメキ実力をつけていった時代である。人気は凄いものだった。毎回、テントにぎゅう詰めになって舞台を観た。

故人を偲ぶにあたって、映像ならすぐに再生できる。「任侠外伝 玄海灘」は、1976年公開の、唐十郎が監督した唯一の映画である。大学の劇団の先輩が端役だが出演したので、個人的にも感慨深い。映画のオープニング曲の韓国現代歌謡を、李麗仙と密航の女達で焚き火を囲んで歌うところが写真のシーンだ。

出演者から教わった歌詞はこうだ、

サランエー コーンモッコリ コッケマンデュローソ サーラハヌーン ターンシネゲ コーロテュリゴシッボー  ターシヌーサーラハヌイマウーン アルゴケシルカー

これだけの情報で、こはら眼科の峰村健司先生が曲名、歌詞を調べて日本語訳をつけてくれた。이영숙(イ・ヨンスク)が唄う꽃목걸이(花の首飾り)で1972年の曲である。

歌詞カードは、以下のURLで参照できる。

https://blog.daum.net/memil9599/45

愛の花の首飾り きれいに作って 愛するあなたに かけて差し上げたい。 あなたを愛するこの気持 ご存知でいらっしゃるだろうか  (以下繰り返し)

Apple Musicに元の曲があった。これは映画のオープニング曲と同じものだ。

https://music.apple.com/jp/album/%EA%BD%83%EB%AA%A9%EA%B1%B8%EC%9D%B4/1064556037?i=1064556111

村瀬修功監督、富野由悠季原作「閃光のハサウェイ」

上演延期を繰り返していたガンダムアニメ映画「閃光のハサウェイ」が、やっと公開された。

富野由悠季の原作はスニーカー文庫から1989年に出版され、名作との評価を勝ち得ている。映画は三部作の第1作にあたり、これからさらに2作作られる予定だが、詳しい日程などは発表されていない。小説の結末はネタバレ禁止だ。ショックを受けた記憶が鮮明に残っている。

「逆襲のシャア」から12年後が舞台となり、続編的位置づけで小説は書かれていた。ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアが主人公である。

ハサウェイの乗るクスィーガンダムと、これと戦う地球連邦軍のペネロペーはミノフスキー・クラフトを搭載し、大気圏内を自由に飛行できる。大型化していった時代のモビルスーツだ。

コックピット内の映像は、VRゲームのようで3D感にあふれている。音響もすごい。3DCGを利用したキャラクター造形は、好みの分かれるところだろう。

小説では、オーストラリアのアデレードとダーウィンの位置を頭に入れておくのに苦労した思い出があるが、地名は変更になったのかダーウィンという街は出てこなかった。

第1作は、話としてはまだ序盤であり今後の展開を待つ。

寺山修司「草迷宮」

泉鏡花の同名幻想小説の、寺山修司監督による映画化。DVDを購入して見直した。

寺山の「草迷宮」は全尺40分の映画である。ルイス・ブニュエル監督のシュルレアリスム映画「アンダルシアの犬」(眼科医ならみんな観ていることだろう。映像に興味さえあれば)をプロデュースした高名なフランスのプロデューサー、ピエール・ブロンベルジェが制作したオムニバス映画の一篇として1979年に作られた。日本公開は寺山の死後となる1983年である。

母の唄っていた手毬唄の歌詞を求める主人公、明(あきら)の青年期を若松武が演じモノクロで表現される。明の少年期を三上博史が演じた。三上博史の映画デビュー作だ。カラーで描かれる。現在という視点は浮動し一点には定まらない。

寺山の映画「田園に死す」「上海異人娼館」も、同時に見直した。ちょっとした寺山映画週間だった。泉鏡花の「草迷宮」の再読も果たした。

岩波書店から1981年に出版された鏡花小説・戯曲選第六巻。紙本は重い。映画中、合いの手を入れるように挟み込まれるフレーズが、原作小説から取られたものであることがわかる。

アグニェシュカ・ホランド「赤い闇」


映画「ソハの地下水道」で知られる、アグニェシュカ・ホランド監督のポーランド映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」をレンタルDVDで観た。

この映画を見るまで、ホロドモールと呼ばれる集団殺害のことはまったく知識がなかった。1932年から1933年にかけて、ウクライナ人が住んでいた地域でおきた人工的な大飢饉で、400万人から1,450万人が死亡したとされる。スターリンによる「ウクライナ人に対するジェノサイド」であると、すでに十数カ国で認定済だ。人道に対する罪として認定した国も多い。20世紀の悲劇として、ナチス・ドイツによるホロコーストと並べられる。

映画は実在したジャーナリスト、ガレス・ジョーンズによる告発を描き出す。

ピューリッツァー賞を受賞しているニューヨーク・タイムズの記者、ウォルター・デュランティが、取材の継続を望む道化の操り人形と成り果て、ソ連に忖度して大飢饉の事実を否定する。

ウクライナに潜入したジョーンズは吹雪の中食べるものがなく、民衆と同じように木の皮を食べ飢えをしのいだ。子供たちによるカニバリズムのシーンも、乾いた描写で挿入される。