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大駱駝艦・天賦典式「パラダイス」

13524560_1073205356066484_2951147183999506226_n 13576672_1074395015947518_7815621408615954088_o2016年6月30日、大駱駝艦の舞踏公演「パラダイス」を世田谷パブリックシアターで観ました。大駱駝艦の舞踏は、そのスペクタル性が特徴で大規模に行う本公演は天賦典式の名を冠せられます。今回の舞台は装置が白一色であり、そこで剃髪・白塗りの男性舞踏手と、眉を落として髪をひっつめた白塗りの女性舞踏手が踊るのですから、色彩に対する飢餓感が生じました。色のない舞台では、光が多弁となり様々なことを語りかけてきます。

麿赤兒を中心に据え、舞踏手全員が鎖で放射状に引っ張っているシーンから舞台が始まります。あえて具象的なイメージを持ち出せば、大駱駝艦という艦船を全員で支えていると例えるべきか、全員が艦船に拘束されていると例えるべきか。

アンリ・ルソーの絵画が映しだされもしましたが、基本はやはり白色でした。赤、青、黄の原色のウィグを被って女性舞踏手が登場した時は、憧れにも似た心の底からの情動が湧き起こり、きれいだという想念に支配されました。それまでは、男性舞踏手の方がずっと魅力的に見えていたのです。

その昔、大駱駝艦の豊玉伽藍が江古田にあった時に観た、薄暗いアトリエ公演。初めて天賦典式を調布で観た時の、煮しめたようなボロを着た亡者の群れ。それらと対比すれば、光に溢れ、金銀原色の衣装を着た白色の舞台はまさにパラダイスの顕現と言えます。

動く箱の装置を用いた踊りに、舞台は移り変わって行きました。この箱の外壁はやはり白が基調で、饒舌な光を反映しました。ところが途中から箱を逆向きにして、青く塗られた内側を見せてしまいます。通常は隠された装置の内部を客席から見るのは、内臓が取り出された生物標本の中を覗き見る感覚でした。

そして、麿赤兒と鎖のシーンに戻ります。麿の衣装は、緑から白に変わっています。

小林泰三「クララ殺し」

71RMhFGLXqLSF・ホラー・ミステリー作家である小林泰三の、ミステリーSF作品「アリス殺し」の続編が出ました。「アリス殺し」では、不思議の国と地球がリンクしあって、登場人物に起こった事件は、もう一方の世界でそのアヴァターの夢として認識されました。今回「クララ殺し」では同じアヴァターを介すリンクが、ETAホフマンの作品世界と地球との間に形成されます。

ETAホフマンの代表作である「砂男」と、チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」の原作となった「くるみ割り人形とねずみの王様」は読まれた方も多いと思います。「マドモワゼル・ド・スキュデリ」、「黄金の壺」を私は読んだことがありませんでした。「クララ殺し」の理解を深めるために現在後追いで読書中です。

前回アリスをサポートした、蜥蜴のビル(地球では理系の大学院生井森建)が、不思議の国からホフマン宇宙に流れついてしまったことから事件が始まります。

クララと言ったら、アニメ「アルプスの少女ハイジ」に出てくるクララをまず思い浮かべます。それを狙ってだと思いますが、最初クララは車椅子に乗って登場します。しかし、「アルプスの少女ハイジ」はまったく関係なく、「くるみ割り人形とねずみの王様」の世界に突入していきます。

小林泰三お得意のロジックが縦横に炸裂しますが、今回はミステリーが中心で、SFとホラー成分は控えめです。不思議の国のすべての事象を地球の事象として書き換える、クトゥルー神話のヨグ=ソトースのような神性あるいは大規模演算装置である、赤の王様は「クララ殺し」には出現しません。代わりと言ってはなんですが、新藤礼都、岡崎徳三郎など、作者の他のミステリー小説の探偵が客演いたします。