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シーロ・ゲーラ「彷徨える河」

川を遡る物語。

Netflixで配信されたアニメ「A.I.C.O. Incarnation」は、黒部川を遡上する物語であり、期待以上におもしろかった。冥府巡りの一種のロードムービーだ。

川を遡る映画というと、まっさきに思い出されるのは、フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」(1979年)だろう。メコン川を遡り、ベトナム戦争の狂気の中を分け入っていく。2001年にコッポラ自身の再編集により「特別完全版」が作られ50分近いシーンが復活された。長くはなったが、物語の中に入り込むことが容易になった。これから見る人には特別完全版の方を勧める。

ベルナー・ヘルツォークの「アギーレ/神の怒り」(1972年)は、アマゾン川を狂気とともに筏で進んでいく名作映画で、筆者が大いに感銘を受けた映画の1つだ。クラウス・キンスキーが主演した。しかし、これは川を下る物語だ。同じヘルツォークの「フィツカラルド」(1982年)はアマゾン川を上っては行くが船の規模が大きく、山登りのお話のほうが中心となっている。

コロンビア出身の映画監督、シーロ・ゲーラの「彷徨える河」(2015年)は、先住民族のシャーマン、カラマカテとともにアマゾン川を小舟で遡り、幻の薬用植物ヤクルナを探す旅を描いた白黒映画だ。最初はドイツ人の探検家、2回目はアメリカ人の探検家と、数十年の時を隔てて2回川上りが行われる。1909年と1940年に記された2人の白人探検家による2つの日誌が、脚本の基となっているということだ。アマゾン川とそのジャングルの中で息づいていた、失われていく先住民族の文化と魂に触れることとなる。