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コニー・ウィリス「クロストーク」

SFの女王コニー・ウィリスの新刊。期待に違わず、楽しく読めました。もしあなたがすでにコニー・ウィリスのファンであるなら、説明は不要でしょう。

コニー・ウィリスの長編小説の初心者であるなら、紙本で2段組715ページという長さに怯まずに読み始めてください。テンポよく軽快に話が進みます。ストーリー・テリングのうまさには脱帽しました。コミュニケーションの未来がテーマとなっています。

「クロストーク」の前に出版された、「ブラックアウト」「オール・クリア」は両方合わせて1つの話ですが、全部で1776ページあるんですから。オックスフォード大学航時史学科シリーズの1つであるこの本も面白い。読んでいる間わくわく感が止まりませんでした。ダンケルクの戦い、ロンドン大空襲、ノルマンディー上陸作戦などが舞台となります。

本格的にコニー・ウィリスを読み始めようと考えるなら、オックスフォード航時史学科シリーズの第1作「ドゥームズデイ・ブック」からスタートを切ることを勧めます。自分がそうしたからですが、深い感動を味わいました。14世紀のペスト禍が描かれます。オックスフォード航時史学科シリーズは、この後「犬は勘定に入れません」、先に述べた「ブラックアウト」「オール・クリア」と続きます。

 短編小説では「女王様でも」「最後のウィネベーゴ」「マーブル・アーチの風」の印象が強く残っています。

ルイス・ダートネル「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」

もし、世界的に急速に広まる致死率が100%に近い新型ウイルスのパンデミックで、1万人程度のわずかな人々を残して人類が死滅したらどうなるだろうか。極端な人口減少が急激に起きて、あとに現在の物質的インフラが手つかずの状態で残される形の大破局だ。文明の一からの再建をどうすれば加速できるか。我々の過去の歴史にあったような無駄な遠回り・停滞を避けて、一直線に進んで行く方策を練る思考実験が本書である。最悪のシナリオ、全面核戦争や太陽からの大規模コロナ質量放出よりは、人類の生存可能性が高い条件で始まる。

生存のための最優先事項は避難場所、水、それに食料だろう。渇きと飢えで死ぬ前に、過酷な気候で外気にさらされたら数時間で命を落とす。しかし、本書のシナリオでは猶予期間がある。残された建物、衣服、火、水、食料があるからだ。中心となって論じられるのは、サバイバル技術ではなくあくまでも文明の再生である。

知識は重要だ。電子機器がなくても読める紙の本を図書館で手に入れてくることが優先事項の上位に来る。この本を電子書籍で買ってしまった私は、紙本で買い直さなければ生き延びられない。

次に農業だ。文明から隔絶された状態でのサバイバル小説の古典、デフォーの「ロビンソン・クルーソー」では大麦と稲の栽培が行われるのに、それより後世に書かれたジュール・ヴェルヌの「二年間のバカンス(十五少年漂流記)」と、そのバッドエンド版、ゴールディングの「蠅の王」では、一気に狩猟採集生活にまで後退し、農業のことを誰も考えもしないことが不思議でならなかった。「ロビンソン・クルーソー」では、家禽の餌袋がたまたまあったこと、アンディ・ウィアーの「火星の人」では、感謝祭のため、冷凍ではなく冷蔵の発芽可能なジャガイモが手に入ったことで農耕を始めることができた。孤島、あるいは孤立した惑星という条件では、農業を始めるにも運が必要だということになる。

本書でも触れているし、農業ラノベの「のうりん」でも問題視されていたが、今日の農業は、次代の収穫が望めないF1種子(ハイブリッド種子)が中心となっている。昔ながらの固定種の種子を見つけ出せるかどうかの運が、文明の名残のある世界でも作用するかもしれない。

農業の章では、コンバインなどの農業機械の作成まで語られる。大麦、小麦の区別もつかない私には、遥か遠くの話に思える。本書の記載を細分化し、図版を増やし、一歩一歩学習していくための実習書を作るのが読者に課せられた責務であろう。

この後には、食物の保存と衣服、熱酸アルカリ反応、粘土・モルタル・金属・ガラスなどの材料、医療、動力、輸送機関、コミュニケーション、応用化学、時間・緯度・経度の章が続く。活字からではイメージが湧かず、実習の必要を痛切に感じたのは、電気通信と六分儀の使い方だ。

本書で重要性が特に評価されているのは、ハーバー・ボッシュ法による窒素の固定、アンモニアの作成である。化学肥料の原料となる。作者の想定する文明復活後の人口がかなり大きいものなので、この重み付けとなるのだろう。