月別アーカイブ: 2019年10月

伴名練「なめらかな世界と、その敵」

表紙イラストは、「さよならピアノソナタ」「ib インスタントバレット」「かぐや様は告らせたい」の赤坂アカ。コミックスになった連載マンガはすべて読んでいる。ジャケ買いした。

早川書房によると、伴名練は寡作ながら発表した短編のほとんどが年間日本SF傑作選に収録され、高い評価を得ている逸材だと。その初のSF短編集だ。全6篇。

私のSF小説の嗜好にマッチした。

イラストだけを見て、表題作「なめらかな世界と、その敵」を読み始めた。第2章で、いくつもの並行世界を行き来できる世界設定はちゃんと説明されるが、まったく予備知識がないと第1章は苦しいかも。最後は、陸上に賭ける少女2人の青春小説となり、爽快感にあふれる。

「シンギュラリティ・ソビエト」。1960年代にソ連の人工知能「ヴォジャノーイ」がシンギュラリティを突破した。ダークな歴史改変もの。この作品が一番好きだ。大量の赤ん坊の群れが人工知能通りを整然と進んでいく。人間は脳の半分を、ヴォジャノーイに演算資源として提供している。

書き下ろしの時間SFもの、「ひかりより速く、ゆるやかに」。時間SFの幾多の名作が小説中で紹介されている。この部分の拡大版、作者のSF愛を伝える長文の「あとがきにかえて」がWeb上で公開中だ。

https://www.hayakawabooks.com/n/n074ba53b3392

「ひかりより速く、ゆるやかに」の冒頭、試し読みはこちら。

https://www.hayakawabooks.com/n/n0cfa8c1132ce

キリル・ピロゴフ主演「リービング・アフガニスタン」

2019年制作・公開のロシア映画。パーヴェル・ルンギン監督。本年9月にレンタルDVDで観たあと、10月にprime videoで見直した。

このブログで以前に触れた、Netflix公開中のロシアドラマ「トロツキー」で、ボリシェヴィキを批判し国外追放となった哲学者、イワン・イリンを好演したキリル・ピロゴフが主演で、KGBの大佐を演じる。

アフガニスタン人民民主党と、その共産政権に対抗する反政府ゲリラとの戦いに、1979年ソビエト連邦が軍事介入したことからアフガニスタン紛争は始まった。1989年のソ連の撤退まで続く長い戦争だった。反政府ゲリラは聖戦を行うものの意味で、ムジャヒディーンと名乗る。この映画は、ソ連軍の1989年の撤退にまつわる出来事を描く。

「戦争は始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい」

1979年の開戦当時、西側諸国は猛反発し、1980年のモスクワオリンピックのボイコットにつながった。

我が国でもソ連の人気はガタ落ちで、第2外国語にロシア語を選択していた大学の後輩はがっかりしていた。東京大学は第2外国語は必修で、何語を選んだかでクラス分けされる。私のころは、文系はフランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、スペイン語が選択でき、理系はフランス語、ドイツ語、ロシア語のみだったと記憶している。現在は文系、理系とも、スペイン語、中国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、韓国朝鮮語の7つから選べる。

登場人物それぞれに焦点を当て、エピソードを重ね合わせて、映画全体を構成している。中将の息子、囚われのパイロットを奪還するための努力もお話の1つだと思っていたほうがいい。戦闘シーンは、手持ちカメラの揺れを効果的に使い、臨場感あふれる映像となっていた。

攻撃ヘリコプターは、アフガニスタン紛争の象徴となった、Mi-24(ミル24)、NATOコードネーム「ハインド」ではなかった。Mi-8(ミル8)と思われる。

ラストシーンで、主人公たちの搭乗したヘリコプターはミサイルよけのフレアを放出した。一瞬機影を見失ったので撃墜されたのかと思ったが違った。アフガニスタンへの、お別れの挨拶としての花火の打ち上げだったのだろうか。