世界的ベストセラーの物理学の書籍。著者は、一般相対性理論と量子力学を統合する、ループ量子重力理論を提唱する理論物理学者。原題は”L’ordine del tempo”、直訳すると「時間の順序」となる。
宇宙を記述する基本方程式に時間変数が存在しない。すなわち過去と未来の違いは存在しないことの説明が前半部分(第1部と第2部)。それでもなぜ、わたしたちは一方向に流れる時間を感じるのかの考察が後半部分(第3部)となる。
熱力学の第2法則からエントロピーは増大する。時間の向きが指定できるのは、エントロピーの増大という統計的な変化を考慮に入れた場合に限られる。初期の宇宙は極端な低エントロピー状態だった。すなわちはるか昔の事物の配置が「特殊」だったと言うことができる。しかし、「特殊」というのは相対的な単語で、あくまでも一つの視点にとって「特殊」なのだ。人間は物理現象の根底にある微細な基礎課程を識別できず、統計的な側面だけをぼんやりした視点から眺める。そのぼやけに関して「特殊」だったのだ。
エントロピーの増大は痕跡を残す。記憶というプロセスがこの痕跡に従う。わたしたちは記憶と予想からなりたつのだ。
おもしろい。
様々な哲学者の言葉、文学、音楽が引用されている。本書にはとりあげられてなかった時の流れの詩を、個人的な好みから追加してみよう。ギヨーム・アポリネールの「ミラボー橋」だ。「日も暮れよ、鐘も鳴れ 月日は流れ、わたしは残る」。
ループ量子重力理論については、同じ著者の”La realtà non è come ci appare”(現実は目に見える通りではない)、邦題「すごい物理学講義」と、”Sette brevi lezioni di fisica”(7つの短い物理学講義)、邦題「世の中ががらりと変わって見える物理の本」に、取り掛かりやすく書かれている。