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デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

ヒトラーによる、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)の飢餓についても触れたくなったので、本書を読み直した。

第二次世界大戦で、ドイツ軍はソ連第2の大都市レニングラードを900日近く包囲し、兵糧攻めを行った。「レニングラード包囲戦」だ。市民の死亡は67万人とも100万人以上とも言われている。レニングラードは耐え抜き陥落しなかった。

主人公レフは17歳、落下傘で落ちてきたドイツ兵の死体から略奪行為を行ったところをソ連兵に捕まった。本来即刻死刑となるところを、脱走兵コーリャとともに秘密警察の大佐から奇妙な任務を授かる。大佐の娘の結婚式のために、1週間以内に卵を1ダース探してこいという。

レフとコーリャの命をかけた弥次喜多道中が始まった。

飢餓の象徴として「図書館キャンディ」が印象深い。本の表紙を剥がして製本糊だけ取り出し、煮詰めて棒状にしたものだ。市内からは動物だけじゃなく本も消えていた。

二人は、人肉食の殺人夫婦の手からかろうじて逃れた。人肉食が横行していたことは、他の場面でもそれとなく書かれている。

卵を求めてドイツ軍支配地域にはいった二人は、パルチザンの一団に救われる。これが、運命の出会いに発展していく。

軽妙な語り口でユーモアとペーソスに溢れた展開が、本書を読みやすく記憶に残る作品に仕立て上げている。