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斧田小夜「飲鴆止渇」

鴆は中国の伝説の毒鳥。タイトルは、鴆の毒の入った酒を飲み渇きを癒やす、すなわち、後のことを考えず目先の利益を得るという四文字熟語から。

羽毛にも毒のある鳥として、ニューギニアに生息するピトフーイが有名か。時雨沢恵一の「ガンゲイル・オンライン」に、ピトフーイという名のキャラクターが登場する。鴆も架空の存在ではなく、過去の中国に、今では絶滅した毒鳥が実際に生息していたとする説がある。

本作品の鴆は、翼長3里に達し、衝撃波で人間や建物を切り裂くラドンのような怪獣である。毒も持っている。現代が舞台で、アジアの小国、揺碧国で民主化を求めるデモと軍が対峙しているさなかに出現した。天安門事件を思い起こされる。

事件の後、政権は変わり、国は発展し科学技術も進歩した。鴆毒に対して、ナノマシンを体内に入れる輸血治療が普及している。

第10回創元SF短編賞優秀賞受賞作。