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ジョージ・ロイ・ヒル「スローターハウス5」

戦略爆撃は、敵国の軍事力だけでなく、経済基盤や市民の士気を打撃することを目的とした航空作戦。兵器工場、交通インフラ、エネルギー供給施設、さらには民間の都市そのものが攻撃対象となる。

代表例として、第二次世界大戦中のイギリスの「ドレスデン爆撃」やアメリカの「東京大空襲」「広島・長崎の原爆投下」が挙げられる。

ハーグ陸戦条約(1907年)やそれに関連する国際法規は、戦時における非戦闘員の保護や無差別攻撃の禁止を定めている。しかし、航空機が戦争に利用されるようになったのは第一次世界大戦以降であり、当時の条約には航空爆撃に特化した規定はなかった。

戦略爆撃の惨禍を受け、第二次世界大戦後に制定されたジュネーブ諸条約(1949年)や追加議定書(1977年)では、非戦闘員保護と無差別攻撃禁止が明確化された。これにより、戦略爆撃のような行為は現代の国際法では違法とされる可能性が高い。

つまり、民間人への被害が甚大であることから倫理的に非難されるべき行為であるとの認識が一般的となったのは第二次世界大戦後だと言える。

原爆開発を描いた映画、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」が我が国においても好評で迎えられた本年は特別な年と言える。その年末なので、通常爆弾による無差別攻撃「ドレスデン爆撃」を中心に据えた1972年の映画、ジョージ・ロイ・ヒル監督の「スローターハウス5」を、手持ちのDVDで見直した。原作は、カート・ヴォネガット・ジュニアの同名小説。

物語は、ビリー・ピルグリムというアメリカ人男性の人生を軸として展開する。ドレスデン爆撃を目撃したあと、トラルファマドール星人に誘拐され、時間はすべての瞬間が同時に存在すると認識できるようになる。過去、現在、未来が無秩序に描かれる。

グレン・グールドのピアノ演奏が、劇中音楽として印象的だ。

原作者カート・ヴォネガット・ジュニアが、自分の小説よりよくできていると高い評価を与えた映画である。