藤井太洋「東京の子」

パルクールの技を駆使して前に進む物語だ。読者に動きたいという情動が呼び起こされる。

忍者のように走り、跳び、登る動画をYouTubeで見たことがある人は多いだろう。フランスで生まれた移動術というやつだ。パルクールの創始者ダヴィッド・ベルは、リュック・ベッソン制作・脚本の映画「アルティメット」(2004)で主演している。映像を長尺で見たい方は映画もご覧あれ。

「東京の子」は、2023年、東京オリンピックの3年後を舞台とした近未来SF小説である。日本は労働力の需要を支えるため大量に移民を受け入れていた。3年で25%も住民が増え好景気に沸く東京では、未来の労働環境の模索も進行していた。五輪施設の民間への払い下げから生まれた経済特区に、サポーター企業で働き給与をもらいながら学べる、1学年2万人の学生を擁する大学校「東京デュアル」が作られたのだ。学費は決して安くはない。卒後サポーター企業に入社すると、借金が半額になる奨学金を学生の80%は利用していた。

パルクールトレイサーの仮部諌牟(かりべいさむ)は、戸籍を買い名前を変えて8年になった。彼の仕事は、仕事に出てこなくなった外国人を説得して、職場に連れ戻すことだ。失踪したベトナム料理店のベトナム人コック、ファム・チ=リンの捜索を依頼される。彼女はバイオテクノロジーの博士号を持つインテリだった。

ファムは、借金して職業の自由がなくなることは人身売買だと、東京デュアルを告発する。

仮部諌牟はどう動くか。労働問題と、昭和の枠組みとの決別を扱った、主人公の成長譚だ。