友人の小説家の第2作です。2021年1月29日に発刊となりました。ここでいうハヤブサとは、大日本帝国陸軍の名機、一式戦、隼のことです。JAXAの小惑星探査機はやぶさ2とは関係ありません。
一式戦は、中島飛行機の開発・製造です。我が国は終戦後GHQの占領下で、7年間飛行機産業は停止させられました。復興後、中島飛行機は社名を富士重工と変え、現在は自動車のブランド名からSUBARUと名乗っています。本作品は、一式戦の設計者を祖父に持つ、自動車レース部門の責任者だった主人公が、航空機部門に異動となり苦難の末に国産戦闘機開発に成功するビジネス小説、企業小説であります。
ここでこのブログの筆者の家系についても文章にしておきます。筆者の父は1939年東大航空学科を卒業の、戦前からの飛行機設計技師でした。昭和飛行機に就職し、初めての仕事はダグラスDC3のノックダウン生産です。これは後にライセンス生産に移行しました。志願して海軍技術士官の任に就いていた時もありましたが、開戦前に退役しています。戦時中は川西航空機の紫電改の、昭和飛行機での生産にも携わっていたようです。戦後1952年にサンフランシスコ平和条約が結ばれるまでは、実家の材木屋の手伝いをして糊口をしのぎ、講和後は財閥解体で3つに分割された三菱重工の中の新三菱重工に拾ってもらいました。その後、日本航空機製造に異動となりYS-11の生産を行っています。新三菱重工時代は工場のある小牧で仕事をしていたので、名古屋の団地住まいでした。その間に、筆者はこの世に生を授かり、2歳のときに伊勢湾台風を経験したことも記憶にしっかりと残っています。
航空機産業が身近である人にとっての、あるあるネタのノンフィクションと、まったくのフィクションを適度に混ぜ合わせるのが鷹匠裕の作風です。技術畑、営業畑、官僚、政治家、国防に直接関わる方など視点の違いによって、小説の受け止められ方がかなり異なるだろうとの憶測を禁じ得ません。筆者はどうしても技術的な方面から眺めるバイアスから逃れることができませんので、電動航空機の登場も期待しましたが外れました。しかし、一般の人にとって不案内な業界の内情を知らせる、面白く書かれた小説ということは間違いないでしょう。小説の最後の方の伊勢湾への台風上陸のエピソードは、完全なフィクションだということです。