劉慈欣「三体0 球状閃電」

「三体」の雑誌での連載は、2006年に始まった。本書「三体0 球状閃電」は、2005年に単行本として刊行。「三体」の前日譚にあたる。

現在においても、そのメカニズムがわかっていない自然現象、球電。主人公の陳は、14歳の誕生日に、球電により両親を灰にされた。その後の人生を球電研究に捧げることになる。

球電が目撃された泰山で、球電の兵器利用を追求しようとする博士課程の女性、林雲に、陳は出会う。林雲はその後、新概念兵器開発センター少佐となり、陳と共に球電研究にのめり込んでいく。

幾多の失敗を経験したあと、陳は球電が未知の空間構造ではないかという仮説を立てる。仮説の検証は、今の研究チームの能力を超える。「三体」シリーズで重要な役割を果たす、世界的理論物理学者、丁儀が仲間に加わる。

思いもよらない概念の出現、加速度的な展開のハードSF。それでいて人間も描かれる。読み進むにつれ邦訳版の「三体0」というネーミングが、当を得たものだったことがわかってくる。

「三体0」および「三体」とは無関係だが、スターリンによる大粛清を描いた、ニキータ・ミハルコフ監督の映画「太陽に灼かれて」のラストシーンで、光の玉が部屋の中に入ってきて、何も起こさず窓をすり抜けて出ていく。筆者は球電だと思っているが、誰もコメントしていない。どうなんだろう。1994年ロシア・フランス合作で、第67回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作。