小林泰三「クララ殺し」

71RMhFGLXqLSF・ホラー・ミステリー作家である小林泰三の、ミステリーSF作品「アリス殺し」の続編が出ました。「アリス殺し」では、不思議の国と地球がリンクしあって、登場人物に起こった事件は、もう一方の世界でそのアヴァターの夢として認識されました。今回「クララ殺し」では同じアヴァターを介すリンクが、ETAホフマンの作品世界と地球との間に形成されます。

ETAホフマンの代表作である「砂男」と、チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」の原作となった「くるみ割り人形とねずみの王様」は読まれた方も多いと思います。「マドモワゼル・ド・スキュデリ」、「黄金の壺」を私は読んだことがありませんでした。「クララ殺し」の理解を深めるために現在後追いで読書中です。

前回アリスをサポートした、蜥蜴のビル(地球では理系の大学院生井森建)が、不思議の国からホフマン宇宙に流れついてしまったことから事件が始まります。

クララと言ったら、アニメ「アルプスの少女ハイジ」に出てくるクララをまず思い浮かべます。それを狙ってだと思いますが、最初クララは車椅子に乗って登場します。しかし、「アルプスの少女ハイジ」はまったく関係なく、「くるみ割り人形とねずみの王様」の世界に突入していきます。

小林泰三お得意のロジックが縦横に炸裂しますが、今回はミステリーが中心で、SFとホラー成分は控えめです。不思議の国のすべての事象を地球の事象として書き換える、クトゥルー神話のヨグ=ソトースのような神性あるいは大規模演算装置である、赤の王様は「クララ殺し」には出現しません。代わりと言ってはなんですが、新藤礼都、岡崎徳三郎など、作者の他のミステリー小説の探偵が客演いたします。