宮内悠介「彼女がエスパーだったころ」

51iqltmjmflスペース金融道シリーズで有名な、SF作家宮内悠介が疑似科学に愛を捧げた短編集「彼女がエスパーだったころ」を読みました。スプーン曲げや終末期医療にまつわるあれやこれやなどがモチーフとして扱われています。語り手の記者である「わたし」は、疑似科学に批判的な立場から話を始めます。そして取材が進むに連れて、疑似科学を肯定も否定もしない境地に至ります。作者のインタビューによれば、科学リテラシーと信仰の両立であり、作者の愛の形です。

ガチガチの科学主義者であり、現代科学に裏付けられたダーウィニズムを信奉するこのブログの筆者が、嫌っているはずの疑似科学に寛容な小説を紹介するのはいささか奇異に感じられるかも知れません。しかし、偏狭な価値観一辺倒ではないことをご理解いただけたと思います。

実は表紙のデザインとタイトルに惹かれて購入を決めたのでした。さらに皮肉なことに、入手した電子書籍版ではページを繰って表紙を見ることができません。講談社に改善を要望したい。

現実世界での社会現象ではありませんから、「水にありがとうと言葉を込めて、全世界の水を浄化する」と書いてあっても、筆者は目くじら立てて怒ったりはしません、しないつもりです、する一歩手前ですが踏みとどまります。