ジョン・ウィンダム「トリフィド時代」

IMG_2739 41WML4ynyFL小説のあらすじを知ったのは、1960年代の小学生の頃。定期購読していた漫画雑誌の巻末にSF小説を紹介する記事があり、そこからという、文章を通じての知識の獲得だったはずだ。候補となる雑誌は3つしかない。「鉄腕アトム」と「鉄人28号」が連載された光文社の月刊誌「少年」。同じく光文社のカッパ・コミックス「鉄腕アトム」と「鉄人28号」のシリーズで、これらも月刊で刊行されていた。少年サンデーや少年マガジンなどの週刊漫画雑誌が主流となる前の時代だった。

小説が発表されたのは1951年で、冷戦による世界的緊張のさなか、核戦争による人類滅亡が素肌で感じられた時代の影響を受けている。この後の1961年にコンゴ動乱がピークに達し、1962年にキューバ危機と大きなうねりはまだまだ続いたのだ。

良質の油が取れるため世界中で大規模に、歩行する肉食植物トリフィドが栽培されていた。ある夜、緑色の流星雨が流れ、世界中の人々がその天体ショーを喜々として鑑賞した。主人公はトリフィドの毒のある鞭で目をやられて、治療のため入院して目を覆っていたので流星雨を目撃しなかった。翌日、流星雨を見た人々は皆、盲目となっていた。トリフィドが大挙して人類を襲い始めた。

私が文庫で「トリフィド時代」(井上勇訳)を購入したのは1981年のことだった。しかし、あまりの文字の細かさに挫けて、35年以上本棚に放置していた。今回、故あって再び手にしてみたが、活字のサイズがやはり耐えられなかった。しかたなく、電子書籍版「トリフィドの日」(志貴宏訳)で読了した。

そして、小説の内容の先入観と異なった部分に驚愕した。

流星雨は自然現象ではなく、軌道上の衛星兵器の誤作動であった可能性が言及される。自然の力による災害ではなく、人間の過ちによるものならば再発を防ぎ得ると主人公たちは事実を肯定的に受け止める。

視覚を維持できた少数の人々が、生き延びた人類の新たな統治法を巡って、党派間抗争を繰り広げることが小説の主題となっている。トリフィドは人類の大敵であるが、より危険で身近な敵は人類そのものである。

失明のメカニズムや治療に関しての考察はまったく行われない。小説の出だしの方で、失明した医師の自殺が描かれる。医療は無力であると、最初から排除されている。