万田邦敏「SYNCHRONIZER」

万田邦敏監督の映画「SYNCHRONIZER」を渋谷ユーロスペースで観た。

映画に登場する古い医療技術は、映画の主題以上に呪術的恐怖を引き起こす。

1973年の映画「エクソシスト」では、パズズに憑依された少女の診察に、コンピュータを用いないアナログな機械的装置である、管球とフィルムが動き回る断層撮影が登場する。EMI社のCTの発表は1972年であり、1973年の時点ではコンピュータ以前の断層撮影は標準的検査法であったのだろうが、悪魔以上に不気味な物体に見える。

1980年の映画「アルタード・ステーツ」では、ジョン・C・リリーの開発したアイソレーション・タンク(感覚遮断タンク)による実験が描かれる。ペンプロッター式の多チャンネルアナログ脳波計が、今では、禍々しさを演出する小道具として目に映る。実験の結果、遺伝子に潜む系統発生の記憶が解放され、主人公の細胞は変化し類人猿と化してしまう。「SYNCHRONIZER」は、医学実験から新しい生命形態が誕生するなど、この「アルタード・ステーツ」に近いものを感じさせる。

認知症治療の研究のため、ヒトとヒトの脳波を同期させる。映画内で扱われるのは脳波であり、映像で見栄えのする、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)やポジトロン断層法(PET)などの最近の脳機能イメージングではない。グロテスクな眼帯様の電極を装着し、正弦波状の脳波(脳波のようなもの)を2つ重ね合わせる。「新世紀エヴァンゲリオン」のインターフェイス・ヘッドセットを介したシンクロを思い浮かべれば理解しやすいだろうが、エヴァのような未来的な格好いいものではない。昭和の時代の民家の中で、昭和の家具に囲まれて実験は継続される。

筆者は視覚誘発電位などの電気生理学的測定の経験を多数持っているが、これはノイズとの戦いである。ハムノイズを極力減らした環境を作り上げ、シグナルよりずっと大きな筋電図などの影響の中から目的とする電位変動を取り出さなければならない。基線の動揺などの誤差要因は、それでもなくならない。測定値は常に誤差を含んでいる。

映画の文脈に合わせて書けば、1個1個の数字の裏に必ず魔が潜んでいるのである。