英『エコノミスト』編集部「2050年の技術」

西暦2050年の未来の様々な分野の技術革新の予測を、エコノミスト誌のジャーナリストに加えて、 科学者、起業家、研究者が語る。

エコノミスト誌編集長ダニエル・フランクリンの序章で、概括が説明され、それぞれの筆者の18の章が続く。未来予測のツール(手法)は、第1章で、エコノミスト誌を代表するテクノロジー・ライター、トム・スタンテージが述べる。未来の手がかりは過去のパターン、現在変化がまさに起きようとしている「限界的事例」、そしてサイエンス・フィクションが描く「想像上の未来」のなかに潜んでいると。

全体を通じて、人間の過ちに対する危惧は残るも、未来は今よりも明るいという基本姿勢で語られている。

また、SFが重要なツールであるとすることから、アレステア・レナルズとナンシー・クレス、2人のSF作家の短編が寄稿されている。アレステア・レナルズは代表作「啓示空間」の文庫本がサイコロと化す厚さが有名だが、本書のは短編であり安心していい。ナンシー・クレスは「プロバビリティ」シリーズで知られている。

MIT物理学教授、フランク・ウィルチェックが基礎物理学の立場から記した第5章が、もっともユニークな語り口で興奮を呼ぶ。扱っている範囲も幅広い。

医療については、メイヨー・クリニックのCEOジャンリコ・ファルージャが第8章で語る。医療はこの5年間だけでも大きく変わったと感じられるが、確かにもっと早く変わっていっていい分野だ。特にIBMのWatsonに代表される、自然言語を理解するAIの導入は2050年まで待つ必要はないだろう。大学の医学教育のあり方は変えなくてはならないし、新規技術導入のコストも問題となるが。