奥泉光「ビビビ・ビ・バップ」

1960年代の新宿の街とモダンジャズ、将棋、落語、そして猫に積もる思いを描き上げた、奥泉光のSFエンターテイメント小説「ビビビ・ビ・バップ」を読了しました。

舞台は21世紀の末、電脳ウイルスのパンデミックをくぐり抜けたあとの世界で、ヴァーチャル・リアリティ技術、人工知能・アンドロイド技術が発展し、貧富の差がさらに拡大しています。パンデミックが起こらなければ、もっと凄いことになっていただろうと想像させられる未来です。その仮想空間に新宿ピットイン、末広亭を含む60年代の新宿の街が再現されます。

作者は1956年2月生まれで、私とは学年で1つ違いとほとんど同年代なはずですが、その興味の中心と嗜好はかなり異なるようです。

私にとって60年代の新宿は、唐十郎の状況劇場の記録や、蜷川幸雄のアートシアター新宿文化の回想で知っているだけの伝説の街です。高校生、大学生の時、実際に駆け回ったのは70年代の渋谷でした。音楽はロックならわかりますが、ジャズは結局好きになれなかったのでよくわかりません。映画「ラ・ラ・ランド」でフリー・ジャズピアニストのライアン・ゴズリングが、クロスオーバー・ジャズのバンドに参加し、それをエマ・ストーンに批判されるくだりが、どうして怒られなくてはいけないのか理解できなかった程です。将棋とか囲碁などの難しいゲームは、戦略、戦術、先読みの積み重ねが必要ですし、脳が疲れるので今のところ興味がありません。サイトで狙いトリガーを引くことをただ反復し、グレネードが転がる音がしたら逃げるといった反射でこなせるFPS(ファースト・パーソン・シューター)が、ゲームの中では一番好きです。落語は小学生のころ見たTV番組で経験が止まっています。飼っているのは犬です。

幸い主人公のジャズ・ピアニスト、フォギーはジャズは本業でも、60年代新宿、将棋、落語に関する知識は一般人なみという設定なので、仲間という親近感を持って読み進むことができました。

紙本ならば分厚いページ数に恐れをなすところですが、電子書籍版で読んだので圧迫感とは無縁でした。そして無事読み終えることができました。作者の熱い思い入れの饒舌に身を委ねられれば、ニッチな知識は後から身についてくることでしょう。

表紙はアンドロイドのエリック・ドルフィーです。