藤井太洋「公正的戦闘規範」

藤井太洋初のSF作品集で、全5篇収録。表題作が一番おもしろかった。

2024年の中国、現在のプレデターなどの無人機による戦闘が発展し、さらに安価なドローンを用い、オペレータではなく搭載したAIが攻撃を行うようになった。これを開発したのは人民解放軍だったが、テロリスト側に劣化コピーされ、無差別テロ目的にキルバグが空にばらまかれていた。上海の日系ゲーム開発会社に勤めている元軍人の趙公正は、春節休暇で遠い新疆の故郷に鉄道で帰る途上、テロとの奇妙な戦いに出会う。

以下ネタバレ。

際限なく拡散するテロとそれへの応戦に歯止めを掛けるには、ドローンのオペレータを含め、戦闘に参加する人間は、必ず戦闘区域にいなければならない。そこには英雄譚的な物語性が必要であるとする。

比較的小規模な、不正規戦が中心の戦闘ならあり得るかもしれない。海軍、空軍が動員された大規模戦争でこの規則を定義するのは難しいと感じるが、現在の対テロ戦の流れに対するアンチテーゼとなっていて、提案の意外な方向性に目を醒まされる思いをした。

オーソン・スコット・カードの名作「エンダーのゲーム」的驚きも仕組まれている。演習ないしゲームだと思っていたものが、実際の生身の戦闘だったというやつだ。芝村裕吏の「マージナル・オペレーション」でも同じようなエピソードにより、主人公は罪の意識を背負うことになった。さらに、似た感覚を呼び起こされた小説として、橋本紡の青春小説「リバーズ・エンド」も挙げておこう。登場人物たちは実際の戦いであるとアナウンスされていたが、時空を隔てた異星人との戦いがゲーム感覚なものであり、「エンダーのゲーム」の演習を思い起こされた。