ベルナルド・ベルトルッチ「革命前夜」

映画「殺し」で監督デビューを22歳にして果たした、ベルトルッチの第2作「革命前夜」(1964年)をレンタルDVDで観た。

イタリア、パルマの青年ファブリツィオは、ブルジョワ階級でありながら共産党員のマルクス主義者だった。同じブルジョワ階級のクレリアと婚約しているが、別れるつもりになっていた。親友アゴスティーノの突然の死にショックを受ける。ミラノから母親の妹である若い叔母ジーナがやって来た。二人は近親相姦の関係にはまりこんでいく。

魅力的な叔母を、アドリアーナ・アスティが演じる。精神疾患の転地療養のためパルマに来ていて、ミラノには帰れない。映画はアドリアーナ・アスティの演技に全部持っていかれた。

新大久保、韓国料理「ハレルヤ」閉店

ハレルヤのプルコギ

1977年創業の韓国家庭料理の老舗「ハレルヤ」が2023年2月26日をもって閉店しました。移り変わりの激しい新大久保の店の中では、古くから続く固定客の多い店でした。

経営者は、筆者の都立青山高校時代の同級生。彼はラグビー部でした。筆者はハンドボールサークルでしたが、右手小指を3回骨折して参加できなくなっていました。

高2の文化祭の時、クラスの出し物が映画と決まって、彼がサミュエル・ベケットのシナリオを映画にしたいと持ってきた時から、深く関わらせていただきました。シナリオのタイトルは確か、「film」という名だったような。フランス語で「映画」という意味です。8ミリ映画を撮影し、上映に漕ぎ着けました。この時代は一般人が扱えるようなビデオカメラは存在していませんでした。

味が保証できる、安心して食べに行ける韓国料理店は、他には思いつきません。

ハレルヤのサイトをじっくり見たところ、時期は決まっていないが移転しますとあります。新しい店の場所は書かれていません。まだ決まっていないのでしょうか。

劉慈欣「三体0 球状閃電」

「三体」の雑誌での連載は、2006年に始まった。本書「三体0 球状閃電」は、2005年に単行本として刊行。「三体」の前日譚にあたる。

現在においても、そのメカニズムがわかっていない自然現象、球電。主人公の陳は、14歳の誕生日に、球電により両親を灰にされた。その後の人生を球電研究に捧げることになる。

球電が目撃された泰山で、球電の兵器利用を追求しようとする博士課程の女性、林雲に、陳は出会う。林雲はその後、新概念兵器開発センター少佐となり、陳と共に球電研究にのめり込んでいく。

幾多の失敗を経験したあと、陳は球電が未知の空間構造ではないかという仮説を立てる。仮説の検証は、今の研究チームの能力を超える。「三体」シリーズで重要な役割を果たす、世界的理論物理学者、丁儀が仲間に加わる。

思いもよらない概念の出現、加速度的な展開のハードSF。それでいて人間も描かれる。読み進むにつれ邦訳版の「三体0」というネーミングが、当を得たものだったことがわかってくる。

「三体0」および「三体」とは無関係だが、スターリンによる大粛清を描いた、ニキータ・ミハルコフ監督の映画「太陽に灼かれて」のラストシーンで、光の玉が部屋の中に入ってきて、何も起こさず窓をすり抜けて出ていく。筆者は球電だと思っているが、誰もコメントしていない。どうなんだろう。1994年ロシア・フランス合作で、第67回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作。

吉田鋼太郎演出、小栗旬出演「ジョン王」

彩の国シェイクスピア・シリーズとして、蜷川幸雄の後を継いだ吉田鋼太郎演出の「ジョン王」は、最初2020年6月に彩の国さいたま芸術劇場で上演が予定されていた。小栗旬出演で、チケットがどうしても取れないほど人気を集めていた公演だったが、緊急事態宣言で全公演が中止。

このままでは、シェイクスピア全37戯曲の完全上演の目標が達成できていないと、2022年12月〜2023年2月の上演が決定された。東京公演の会場はシアターコクーン。前回のチケット取りで懲りていたので、劇場に足を運ぶための努力はしないで、Bunkamura STREAMINGでの映像配信で視聴した。

小栗旬が、最もセリフの多い私生児フィリップを演じるが、主要な役はすべて充実した出番がある群像劇として描かれている。印象に強く残ったのは、吉原光夫のジョン王と玉置玲央のコンスタンスだ。

高校の世界史で勉強した、王の権限に制限を加えるマグナ・カルタについて、シェイクスピアはいっさい触れていない。

この「ジョン王」は、今日ではシェイクスピア劇の中でもっとも人気がない作品と言われている。それもあって今回の上演には注目が集まったのだろう。

アラバール作、生田みゆき演出「建築家とアッシリア皇帝」

2022.12.4にシアタートラムで、劇作家フェルナンド・アラバールの代表作「建築家とアッシリア皇帝」を観た。前から4列目で中央近くのいい席だった。田ノ口誠悟の新訳で、生田みゆき演出、二人芝居で岡本健一、成河出演。

絶対にチケットが取れるように、確率を上げるため自社のチケット先行販売が利用できる、世田谷パブリックシアター友の会に入会した。イープラス、ぴあなどの大手は避けたのだ。

二人の俳優、岡本健一と成河の演技は冴えていて、切れ味良く、充分に楽しめた。

アラバールの演劇は、1970年代に芝居を齧った筆者には原点にあたる。懐かしい。テアトル・パニック(恐慌の演劇)と自らの作品を称したアラバールだが、ベケット、イヨネスコに続く、不条理演劇の第二世代とも位置付けられる。

不条理演劇のストーリー性のない、「関係」でできた世界。舞台から、ループ量子重力理論の提唱者、カルロ・ロヴェッリの著書「世界は関係でできている」で語られた哲学のアナロジーを感じ取った。1967年のパリでの初演から55年経つが、今でも生き生きとした刺激をもたらしてくれる作品だ。

1970年代後半に購入した宮原庸太郎訳の戯曲集。

エリザベス・モス主演「ハースメル」

エリザベス・モスの怪演が全てと言って過言ではない映画。Amazon prime videoで観た。

あらすじは、公式サイトより一部修正して。

女性3人組のパンクロックバンド「サムシング・シー」。
サムシング・シーのメインボーカル「ベッキー・サムシング」(エリザベス・モス)は、パンクロック界のカリスマ的存在。

彼女の音楽性と過激なパフォーマンスは熱狂的なファンを生む一方で、その言動は常に世間の注目を集めることとなり、周囲からの批判やプレッシャーによって、ベッキーは心身のバランスを崩している。

人気にも陰りが出て、その焦りから呪術師に心酔し、ドラッグやアルコールに溺れきっていくベッキー。バンドメンバーとの間にも大きな亀裂が生じ、常軌を逸した行動が引き金となって、ついに、舞台から引きずり降ろされる。

それから1年後、バンド活動を休止し、表舞台から退いたベッキーは、アルコールやドラッグを絶ち、少しずつ自分を取り戻そうと日々葛藤していた。そんな彼女を救ったのは、最愛の娘タマの存在。

ベッキーは自分の過去と向き合い、バンドメンバーやかつての仲間の力を借り、4年ぶりにライブを行う。

監督はアレックス・ロス・ペリー。

若手のバンドAkergirlsメンバー役で、カーラ・デルヴィーニュが出演してる。映画内ではゆっくり見れなかったAkergirlsの動画がYouTubeにあった。

https://youtu.be/J9jf1qdUU4Q

癖の強い映画で、見るのが辛くなる場面も多いが、ステージ活動を行っている人は見るべき。

MacOS Venturaに、Mojaveから

Venturaのデスクトップピクチャ

2022.10.24リリース開始のMacOS 13 Venturaにアップデートした。これまでは、MacOS 10.14 Mojaveを使用していた。これは、Mojaveの次のバージョンCatalinaから、古い32ビットアプリケーションに非対応となったので、アップデートを控えていたためだ。

この間にMacOSは10.15 Catalina、11 Big Sur、12 Monterey、そして今回の13 Venturaと4段階も進化していた。

使用感にiPhoneとの格差が開いてきたこと、32ビットアプリケーションの使用頻度が減ったこと、互換性の問題が生じることが多くなったことから、アップデートに踏み切った。

昔はOSをアップデートすると、色々と細かい不都合が発生したが、現在のところ問題なく快調に動いている。

MicrosoftのOfficeは2008年の32ビットアプリケーションを14年に渡って使用していた。2021年版に買い替えた。事務系の仕事ではないのでOfficeの重要性は低く、サブスクリプション契約は不要だからだ。1年に1回くらいに使用頻度が減っていたCS5のAdobe PhotoshopとIllustratorはもう使わないことにした。

Venturaの新しい機能で、iPhoneのカメラとマイクをMacと連係させられる。これは、ZoomなどのWeb会議が増えた現在、活用できるだろう。

ケイト・ベッキンセイル、カーラ・デルヴィーニュ出演「天使が消えた街」

2015年の映画。映画「アンダーワールド」シリーズを支えたケイト・ベッキンセイルと、映画「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」で主役のひとりローレリーヌを演じた、モデルと女優で活躍するカーラ・デルヴィーニュが共演している。レンタルDVDで観た。

監督は、マイケル・ウィンターボトム。

4年前にイタリアのシエナで、イギリス人留学生エリザベスが殺害された。ルームメイトのアメリカ人留学生ジェシカとその恋人が殺人犯として逮捕され、一審判決は有罪だった。控訴審が始まっている。

映画監督で脚本家の、トーマス(ダニエル・ブリュール)が事件の映画化のための調査でシエナに来た。年代の違うふたりの女性と良い仲になるも、映画の構想はまとまらず、脚本は遅々として進まない。

メディアやプロダクションが考える、一般受けする映画の脚本を書くことには抵抗がある。ゲーテの「神曲」三部作の構成を取り入れようと誇大妄想を抱いてみたり、知人が真犯人ではないかと疑って、馬鹿げた振る舞いをしてしまう。そして、「神曲」の第三部「天国篇」のみに従って、被害者エリザベスを讃える映画を作ろうと決意する。

前作品が失敗に終わったトーマスの復帰作となるはずだが、見ていてとにかく仕事が遅いのにイライラさせられた。ケイト・ベッキンセイルとカーラ・デルヴィーニュとの逢瀬が中心となって描かれる。緻密な犯罪サスペンス映画を期待して観てはいけない。

高橋昌一郎「フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔」

「横浜駅SF」で知られたSF作家、柞刈湯葉(いすかり・ゆば)の短編集「まず牛を球とします。」に収載された「沈黙のリトルボーイ」の作者解題で紹介された。参考資料として読んだが、大抵の小説よりも小説だったとある。

「人間のフリをした悪魔」と呼ばれ、宇宙人のような人類を超えた知性を発揮したフォン・ノイマンは、非常に幅広い科学の分野に影響をおよぼした。その逸話は、様々な書籍で目にしてきたが、一冊の本で通して読むのは初めてだった。

序文に「フォン・ノイマン著作集」のタイトルが列挙されている。第1巻「論理学・集合論・量子力学」、第2巻「作用素・エルゴード理論・群における概周期関数」、第3巻「作用素環論」、第4巻「連続幾何学とその他の話題」、第5巻「コンピューター設計・オートメタ理論と数値解析」、第6巻「ゲーム理論・宇宙物理学・流体力学・気象学」だ。

その哲学を推測するにあたって、本書では原爆開発の「マンハッタン計画」での業績、発言、行動の比重が大きく取り扱われているように思える。

きっかけとなった柞刈湯葉の短編集

斜線堂有紀「楽園とは探偵の不在なり」

日本SF作家クラブ編のアンソロジー「2084年のSF」で、斜線堂有紀の作品に初めて出会った。ジョージ・オーウェルの「1984年」から100年後の2084年が舞台ということだけが縛りの短編競作集で、23人の作家が参加してる。

斜線堂有紀の「BTTF葬送」は、2084年の映画界を描いた物語だ。映画の輪廻転生のため、往年の名画は100年で焼却されることになっている。BTTFすなわちバック・トゥ・ザ・フューチャーも2085年に葬送される。

2017年よりミステリー、SF、ライトノベル等のジャンルで斜線堂有紀は活動していて、出版された作品は多数ある。長編ミステリーで最も話題となっていた、本作品を読んでみた。

近年、ミステリー小説界では「特殊設定もの」と呼ばれるブームがあるそうだ。超常現象が起こっていても、論理性を重視した本格ミステリーが語られる。

この小説の世界では、顔がない不気味な天使があちこちにいる。2人を殺害すれば、天使により直ちに地獄に引きずり込まれる。このルールでは、起こり得ないはずの連続殺人事件の謎に挑む。

ミステリが読みたい!2021年版第2位。