「初音ミク・クロニクル」

アート展「初音ミク・クロニクル」を品川 THE GRAND HALLで見た。撮影自由の、等身大初音ミクフィギュアが素晴らしい出来だった。さらに、公式イラストを担当したKEIによる、ツインテールではないポニーテールの初音ミクifのイラストが心を掴んだ。こちらは撮影禁止。

スマホアプリを利用した拡張現実ギャラリーガイドはあった。しかし、空間全体を作品化するインスタレーションを中心とした展示を期待していたが違った。映像ももっと数多く出すべきだ。

世界にタメ張れる日本出身の歌手は初音ミクしかいないと思っている筆者は、TOKYO2020開会式の演出では満足できなかった。

名曲「メルト」を含んだ、supercellの1stアルバム「supercell」が世に出たのは、2009年3月だった。ここらへんから多くの人が熱狂にとり憑かれた。このアルバムの中では「ブラック★ロックシューター」が一番好きだ。

中川翔子出演「SHOW BOY」

生しょこたんを見るために、2021.7.8 マチネの、シアタークリエの舞台「SHOW BOY」に行った。しょこたんがTwitterで、これのメイクと衣裳を話題にしていたのだ。素敵だったのでチケットを取った。

ジャニーズの男性4人のユニット、「ふぉ〜ゆ〜」の持ちネタの舞台で、今回は2年ぶり2回目の公演となる。演出はウォーリー木下。

巨大な豪華客船の最大の見世物は、キャバレー・キットカットクラブで午前0時に開幕するショーステージだ。しょこたんが支配人として取り仕切っている。準備に追われるキャバレーの裏側では、あちこちでトラブルが同時発生していた。

しょこたんはジャニーズの面々に負けることなくダンスをこなした。一人だけ背が低いのが目立つのがご愛嬌。唄も良かった。「裏方」を演じるふぉ〜ゆ〜の福田悠太が弟で、しょこたんが姉の役柄だったがそつなく演じられていた。太い声を出していたのは役作りの結果か。のどを痛めていないかと心配になった。

唐十郎「任侠外伝 玄海灘」

女優、李麗仙が、2021.6.22逝去された。

紅テント、状況劇場で主演女優を務め、アングラの女王とも呼ばれた。唐十郎の元妻、大鶴義丹のお母様である。

このブログで以前に触れたが、状況劇場の芝居は1975年の「糸姫」から観ていた。根津甚八と李麗仙が主演という形が定着して久しく、小林薫がメキメキ実力をつけていった時代である。人気は凄いものだった。毎回、テントにぎゅう詰めになって舞台を観た。

故人を偲ぶにあたって、映像ならすぐに再生できる。「任侠外伝 玄海灘」は、1976年公開の、唐十郎が監督した唯一の映画である。大学の劇団の先輩が端役だが出演したので、個人的にも感慨深い。映画のオープニング曲の韓国現代歌謡を、李麗仙と密航の女達で焚き火を囲んで歌うところが写真のシーンだ。

出演者から教わった歌詞はこうだ、

サランエー コーンモッコリ コッケマンデュローソ サーラハヌーン ターンシネゲ コーロテュリゴシッボー  ターシヌーサーラハヌイマウーン アルゴケシルカー

これだけの情報で、こはら眼科の峰村健司先生が曲名、歌詞を調べて日本語訳をつけてくれた。이영숙(イ・ヨンスク)が唄う꽃목걸이(花の首飾り)で1972年の曲である。

歌詞カードは、以下のURLで参照できる。

https://blog.daum.net/memil9599/45

愛の花の首飾り きれいに作って 愛するあなたに かけて差し上げたい。 あなたを愛するこの気持 ご存知でいらっしゃるだろうか  (以下繰り返し)

Apple Musicに元の曲があった。これは映画のオープニング曲と同じものだ。

https://music.apple.com/jp/album/%EA%BD%83%EB%AA%A9%EA%B1%B8%EC%9D%B4/1064556037?i=1064556111

村瀬修功監督、富野由悠季原作「閃光のハサウェイ」

上演延期を繰り返していたガンダムアニメ映画「閃光のハサウェイ」が、やっと公開された。

富野由悠季の原作はスニーカー文庫から1989年に出版され、名作との評価を勝ち得ている。映画は三部作の第1作にあたり、これからさらに2作作られる予定だが、詳しい日程などは発表されていない。小説の結末はネタバレ禁止だ。ショックを受けた記憶が鮮明に残っている。

「逆襲のシャア」から12年後が舞台となり、続編的位置づけで小説は書かれていた。ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアが主人公である。

ハサウェイの乗るクスィーガンダムと、これと戦う地球連邦軍のペネロペーはミノフスキー・クラフトを搭載し、大気圏内を自由に飛行できる。大型化していった時代のモビルスーツだ。

コックピット内の映像は、VRゲームのようで3D感にあふれている。音響もすごい。3DCGを利用したキャラクター造形は、好みの分かれるところだろう。

小説では、オーストラリアのアデレードとダーウィンの位置を頭に入れておくのに苦労した思い出があるが、地名は変更になったのかダーウィンという街は出てこなかった。

第1作は、話としてはまだ序盤であり今後の展開を待つ。

劉慈欣「三体III死神永生」

「三体」3部作の最終巻、「死神永生」が2021.5.25に発売となりました。

作者、劉慈欣のインタヴューによると、「三体I」「三体II黒暗森林」は、SFファン以外の読者にもわかるよう書いてという出版社の意向に沿った部分がありますが、第3部「死神永生」は純粋にSFファン向けに全開で書いたということです。

新しい主人公として、若き女性エンジニア程心(チェン・シン)を迎え、彼女を中心としてストーリーは進行していきます。そして、全宇宙サイズの規模と宇宙の終末までの時間的広がりを持つメタフィクション的物語世界だったことに理解が追いつきます。

冒頭に入れられた歴史、コンスタンチノープル陥落が、4次元世界との邂逅が過去にあったことを示していることに気づかされますが、歴史小説として読んでこの部分も面白い。Netflixオリジナルドラマ「オスマン帝国:皇帝たちの夜明け」を観て知識を補完しました。

三体未読の方は、第1巻「三体」からページを開いてください。

アサウラ「シドニアの騎士 きっとありふれた恋」

弐瓶勉のSF漫画・アニメの「シドニアの騎士」をアサウラがノベライゼーションした。弐瓶勉のTwitterで知って読んだ。

既存の「シドニアの騎士」の世界と設定・人物は変わらずシームレスに繋がる。

中性の整備士、金打ヨシと、クローンである仄姉妹の1人、仄燧の淡い恋愛の物語。

作者のアサウラは、「黄色い花の紅」で2006年に集英社からデビューした。デビュー作が今でも心に残る。拳銃が中心のガンアクションで百合の要素もあるが、シングルアクションとダブルアクションの違いもわからない一般人に、丁寧に解説を加えてくれていた。電子版で復刻している。

アニメ映画「シドニアの騎士 あいつむぐほし」の劇場公開が延期された。現在のところ、2021年6月4日が公開予定日だ。

寺山修司「草迷宮」

泉鏡花の同名幻想小説の、寺山修司監督による映画化。DVDを購入して見直した。

寺山の「草迷宮」は全尺40分の映画である。ルイス・ブニュエル監督のシュルレアリスム映画「アンダルシアの犬」(眼科医ならみんな観ていることだろう。映像に興味さえあれば)をプロデュースした高名なフランスのプロデューサー、ピエール・ブロンベルジェが制作したオムニバス映画の一篇として1979年に作られた。日本公開は寺山の死後となる1983年である。

母の唄っていた手毬唄の歌詞を求める主人公、明(あきら)の青年期を若松武が演じモノクロで表現される。明の少年期を三上博史が演じた。三上博史の映画デビュー作だ。カラーで描かれる。現在という視点は浮動し一点には定まらない。

寺山の映画「田園に死す」「上海異人娼館」も、同時に見直した。ちょっとした寺山映画週間だった。泉鏡花の「草迷宮」の再読も果たした。

岩波書店から1981年に出版された鏡花小説・戯曲選第六巻。紙本は重い。映画中、合いの手を入れるように挟み込まれるフレーズが、原作小説から取られたものであることがわかる。

デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

ヒトラーによる、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)の飢餓についても触れたくなったので、本書を読み直した。

第二次世界大戦で、ドイツ軍はソ連第2の大都市レニングラードを900日近く包囲し、兵糧攻めを行った。「レニングラード包囲戦」だ。市民の死亡は67万人とも100万人以上とも言われている。レニングラードは耐え抜き陥落しなかった。

主人公レフは17歳、落下傘で落ちてきたドイツ兵の死体から略奪行為を行ったところをソ連兵に捕まった。本来即刻死刑となるところを、脱走兵コーリャとともに秘密警察の大佐から奇妙な任務を授かる。大佐の娘の結婚式のために、1週間以内に卵を1ダース探してこいという。

レフとコーリャの命をかけた弥次喜多道中が始まった。

飢餓の象徴として「図書館キャンディ」が印象深い。本の表紙を剥がして製本糊だけ取り出し、煮詰めて棒状にしたものだ。市内からは動物だけじゃなく本も消えていた。

二人は、人肉食の殺人夫婦の手からかろうじて逃れた。人肉食が横行していたことは、他の場面でもそれとなく書かれている。

卵を求めてドイツ軍支配地域にはいった二人は、パルチザンの一団に救われる。これが、運命の出会いに発展していく。

軽妙な語り口でユーモアとペーソスに溢れた展開が、本書を読みやすく記憶に残る作品に仕立て上げている。

アグニェシュカ・ホランド「赤い闇」


映画「ソハの地下水道」で知られる、アグニェシュカ・ホランド監督のポーランド映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」をレンタルDVDで観た。

この映画を見るまで、ホロドモールと呼ばれる集団殺害のことはまったく知識がなかった。1932年から1933年にかけて、ウクライナ人が住んでいた地域でおきた人工的な大飢饉で、400万人から1,450万人が死亡したとされる。スターリンによる「ウクライナ人に対するジェノサイド」であると、すでに十数カ国で認定済だ。人道に対する罪として認定した国も多い。20世紀の悲劇として、ナチス・ドイツによるホロコーストと並べられる。

映画は実在したジャーナリスト、ガレス・ジョーンズによる告発を描き出す。

ピューリッツァー賞を受賞しているニューヨーク・タイムズの記者、ウォルター・デュランティが、取材の継続を望む道化の操り人形と成り果て、ソ連に忖度して大飢饉の事実を否定する。

ウクライナに潜入したジョーンズは吹雪の中食べるものがなく、民衆と同じように木の皮を食べ飢えをしのいだ。子供たちによるカニバリズムのシーンも、乾いた描写で挿入される。

酉島伝法「皆勤の徒」

ビジネス小説、会社小説というと、SFの界隈で有名なのはこの短編集の表題作。4つの短編からなる連作をすべて読み終えると、壮大なポストヒューマンの遠未来世界が頭の中に広がる。1回目の読書に2ヶ月半かかった。紙本で買い直して、現在2回目の読書中。イメージを完璧なものにするためには、これから何回も読むことになるだろう。

表題作は2011年の第2回創元SF短編賞受賞作。短編集は第34回日本SF大賞を受賞した。本文中のイラストは作者による。

読む人を選ぶ小説ではある。造語だらけの本作品を読みやすくするための用語集が設定資料集という形でKindle本となっている。