滝本竜彦原作「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

三浦春馬を偲ぶため、中古DVDで映画「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」を見直した。舞台「ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックIII」シアターオーブ(2013.1観劇)や、映画「永遠の0」(2014.1鑑賞)はまだ記憶に比較的しっかりと残っていたが、本作は映画館で2008.2に観たきり忘れていた。

原作は「NHKにようこそ!」で有名になった元ひきこもり作家、滝本竜彦のデビュー作だ。2001年発売で、2002年に読んでいる。

長編映画のメガホンを取るのは初めての、北村拓司が監督である。

映画の内容は原作とほぼ同じで、絵里の制服はセーラー服ではなくブレザー。へたれな高校生山本陽介(市原隼人)は、チェーンソーを振り回す怪人との死闘を繰り返している美少女高校生、雪崎絵里(関めぐみ)と出会った。チェーンソー男が出現したときから、驚異的な身体能力が芽生えた絵里だったが、陽介は常人のままでまったく戦力にならず後ろで応援しているだけ。しかし、陽介の粘りから、二人で行動をともにすることは続いていった。

バイクで夜間暴走し死亡した、陽介の同級生の友人、能登を三浦春馬が演じた。12年前の映画なので、撮影時は17歳か18歳か。とにかく若い。永遠に陽介の先を走り続け、追いつくことのできない男の位置づけだ。

「無理だよお前は。あの子とダラダラと薄らぼんやりとした幸せを楽しめよ」

「なぁ能登!」「生きているオレが羨ましいだろう!」

劉慈欣「三体II黒暗森林」

劉慈欣の三体3部作の第二作「黒暗森林」が本年6月18日に発売となりました。私自身は6月中に読み終わっています。このブログに載せるのが遅れるのはいつものことですが、ネタバレしたら絶対にまずいストーリーの大展開が何度もあるので、具体的な紹介が書けないことも遅れの原因でした。

このブログ内では、2019年8月の投稿で最初の「三体」第一作の紹介をしています。まだお読みでなければ、そちらをお先にどうぞ。

三体世界からの侵略艦隊の到着を四百数十年後に控えた地球は、11次元の陽子から作られた、タイムラグのない量子もつれによる通信が可能な、智子(ソフォン)の監視のもとにある。人間の心の中だけが智子にのぞかれない場所だという理由で、4人の選ばれた面壁者に人類の未来は託された。

小川哲「ゲームの王国」

上巻は、カンボジアの過去を舞台とした歴史小説。シハヌーク翼賛体制からロン・ノル政権にかけての秘密警察の時代と、クメール・ルージュのポル・ポト政権による大量虐殺の時代が描かれる。主人公の一人ソリアはポル・ポトの隠し子とされたプノンペンの孤児で、嘘を見抜く能力を持つ少女である。もう一人の主人公の少年ムイタックはバタンバン州の田舎ロベーブレソン村出身の天才児。他にも、へんてこな能力を持ったマジック・リアリズム的な人物が何人も登場する。少女と少年は、バタンバンの街でカードゲームの勝負を行い、本当の楽しさを味わった。この日にクメール・ルージュによる支配が始まってしまう。

下巻は、近未来2023年が中心となって話が進むSF小説である。ソリアは政治家となっている。ムイタックは大学教授となり脳波(誘発電位)でコントロールするゲームを開発した。

ソリアは1956年生まれで、18歳の時にクメール・ルージュによる占領を体験した。筆者と同年代の設定である。筆者も、都市から農村への強制移住を一面で報じた新聞記事を覚えている。

ポル・ポトにより、カンボジアの人口800万人のうち170万人が殺害されたと考えられている。その原始共産制の試みと文明破壊の悲惨な光景を描いたのが、1984年の名作映画「キリング・フィールド」だ。映画も見ておいた方が、状況を理解しやすいだろう。

筆者の唯一のカンボジア実体験は、2006年のシェムリアプ、アンコール遺跡旅行である。観光の中心地では地雷の危険性がなくなったので、一家の夏休み旅行として行った。当時遊んでいたゲームの舞台にアンコールワットがあり、どうしても本物を見たかったのである。

「ゲームの王国」は2017年8月に単行本が刊行され、第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞した。文庫と電子書籍が出たのは2019年12月だ。

アルフレッド・ジャリ「超男性」澁澤龍彦訳

7冊目。フランスの小説家、劇作家であるアルフレッド・ジャリの代表作。シュルレアリスムの先駆者と位置づけられています。

人間と機械とセックスが、競争というスポーツを通じて無機質的に結びつけられました。そこにはヒューマニズムは存在しません。1902年の作品です。

ジャリは、近代演劇を語る時に第1ページに出てくる戯曲「ユビュ王」の作者でもあります。

マリオン・ジマー・ブラッドリー ダーコーヴァ年代記「カリスタの石」阿部敏子訳

6冊目。ダーコーヴァ年代記は創元推理文庫で、1986年から1988年の間に22冊が翻訳刊行されました。残念ながらシリーズ途中で出版は打ち切りでしたが、この世界にどっぷりと浸っていたファンは多かったはずです。

人類が不時着して、独自の文明を作り上げた惑星ダーコーヴァが舞台。剣と魔法ならぬ超能力(ララン)の世界。女性たちがみんな生き生きと描かれてました。

一番好きだったのが「カリスタの石」、次は「ホークミストレス」かな。

カバーと挿絵は、加藤洋之&後藤啓介でした。

スタニスワフ・レム「砂漠の惑星」飯田規和訳

7日間ブックカバー紹介のまねごとの5冊目です。ポーランドSFの巨匠であり、世界的SF作家であるスタニスワフ・レムの、ファーストコンタクト三部作の3番目を選びました。三部作は、人類とは違う異星人との意思疎通の不可能性がテーマとなっています。ハチ(米津玄師)の「砂の惑星」ではありませんよ。

レムを読み始めたのは、アンドレイ・タルコフスキーの映画「惑星ソラリス」の原作者であり、原作「ソラリスの陽のもとに」が映画よりずっと素晴らしいという評判を聞いたからです。現在は新訳版が「ソラリス」という書名で出ています。

意思を持つ惑星の海との葛藤を描く思弁的な「ソラリスの陽のもとに」と異なり、「砂漠の惑星」は未知の敵との戦いも描かれ、エキサイティングで没入しやすい小説です。これでレムに魅せられて、レムの作品を次々と読んでいきました。

この頃(1979年ごろ)読んだSF小説は、大御所の作家のものが多かったと思います。アーサー・C・クラークならば「幼年期の終り」は、1953年の作品ですが必読の名作です。後味は苦いものが残ります。好き嫌いで言ったら、1980年に邦訳が出た「楽園の泉」のほうが好きでした。

ジャック・モノー「偶然と必然」渡辺格・村上光彦訳

4冊目。ジャック・モノーはノーベル生理学・医学賞を1965年に受賞したフランスの分子生物学者です。「偶然と必然」は1970年の書籍で、日本語訳が出たのが1972年。筆者は大学の教養課程1年の時(1975年)に読みました。

生物とは何かということから考察が始まります。

分子生物学の立場からダーウィンの進化論を解釈し、キリスト教的世界観と、マルクス主義の弁証法的発展に則って進化があるとする思想を妄言として切り捨てました。今では当たり前と言える主張ですが、発表当時は論争を呼んだということです。

論証は明解で力強く、科学的思考法のあり方に誇りを持たせてくれる本でした。

「大自然 その驚異と神秘」日本リーダーズ・ダイジェスト社編

3冊目。1970年の本です。百科事典サイズの判型に、生態学を中心として地質学、天文学に至るまでの111編の論説が、カラー写真をふんだんに使用して収載されています。文章は平易で漢字にはルビを振り、小学校高学年から読めるよう配慮されていました。今日なら、ナショナルジオグラフィックに載っているような記事と表現すればいいでしょうか。ナショナルジオグラフィックの日本語版は1995年発刊で、まだこの時代にはありませんでした。

50年前に出版された本書を今、ざっと読み返してみると、干潟生態系の環境に対する重要性がすでに説かれています。一方、恐竜について書かれた記事では、恐竜と現生爬虫類が同一視されていたり、恐竜絶滅の原因は諸説あるが不明とされ、恐竜から鳥類が進化して生まれたという考えはまったくなかったことがわかります。

学校から帰ったあと毎日ワクワクしながらひもといていた書籍も、とっくの昔にその役割を終えていたのですね。

ジャン・ジュネ「花のノートルダム」堀口大學訳

さて、自分に大きな影響を与えた本の紹介、2冊目を投稿します。孤児で、泥棒、同性愛者のジュネが、監獄の中で記した処女作の小説です。

「花のノートルダム」を読んだのは、筆者が高校生の時です。我が国では60年代から70年代前半まで、実存主義の流行がありました。哲学者のジャン=ポール・サルトルが評論「聖ジュネ」で、ジュネを激賛しているという話をきっかけにして、ジュネの作品に親しむようになりました。サルトルの評論の方はまったく目を通していませんので、実存主義的解釈の内容は知りません。

ジュネは言葉を自由奔放に使いこなします。筆者は、それまでは文章は読めても書くことができない。作文の課題はいつも出さずに帰宅。何らかの心理的トラウマの中に閉じ込められていたのですが、「花のノートルダム」を読んで解放されました。自由な文章を書くのなら、言葉は現実にこだわる必要はなく、お気に召すままでいいんです。

ベトベトした心の中の本音を晒すのは、かっこ悪くて好きじゃありませんが、ここは少しだけ正直になって書きました。

新潮文庫の表紙絵は、村上芳正の手によるものです。

ルイス・キャロル「ふしぎの国のアリス」岩崎民平訳註

Facebookで、自分の好きな本の表紙を7冊紹介するのが流行っています。読書文化の発展のためという趣旨のようです。ブログで真似してやってみようと思い立ちました。映画なら、自分にとって重要な上位に位置する作品はだいぶ以前から順位付けしているのですが。1位はキューブリックの「2001年宇宙の旅」。本となると、選択肢が多すぎて意外と難しい。でも、第1位はこの本しかありえません。原文でも、翻訳でも幾度となく読みふけりました。

研究社の英和辞典で有名な岩崎民平が、翻訳と註釈を行い原文と併記で対訳という形で出版したのが、写真の研究社新訳註叢書だったと思います。Amazonのサイトで書影を探し出しました。旧字の「國」ではなく「国」だった気もしますが。自分の持っていたものは繰り返し手に取りボロボロになってしまい、別の訳者による新しい翻訳や原文も簡単に手に入るようになったことから、だいぶ前に捨ててしまっています。

多数の言葉遊びが含まれ、鞄語と言われる2つ以上の言葉の意味を1つの言葉に詰め込んだ合成語が頻出する文の味わいを逃さず読むのに、多くの註解とともに原文に当たれる本書はとても役立ちました。また、現代英語と比べるとイディオムがあまり出てこない、19世紀ヴィクトリア朝の格調高い文章です。大学受験とは無縁なのが良かった。

挿絵はオリジナルのジョン・テニエルのものが使われていました。

2冊目ももう決めていますがいつ投稿できるかはわかりません。